蛇らい

犬鳴村の蛇らいのレビュー・感想・評価

犬鳴村(2020年製作の映画)
3.0
国産ホラーの底力を見ました。実際に肝試しに行ってもうまいこと怪奇現象は起きやしないが、起きてほしいであろう怪奇現象をとことん劇中で見せてくれる。

YouTube絡みの若年層に向けたマーケティングでありながら、キャスティングでは媚びを売らない。ポスターのビジュアルには役者をドンと打ち出したりせず、洗練され、不気味さを損なわないデザイン。日本映画のひとつの突破口の形ではないかと思う。

Jホラーの巨匠の腕は健在のようで、様々な手法で楽しませてくれる。

人間が落下してくるって思った以上に怖いなと感じた。落下するまで電話で会話しているのだが、実際に聞こえる声と電話越しの時間差で聞こえるをダブらせ、リファレンスさせる演出がとても良かった。

電話ボックスの水責め演出も素晴らしい。電話ボックスがスケルトンで、かつ閉ざされた狭い空間であることが存分に生かされている。

『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり』でもジェシカ・チャスティンが血の海に溺れそうになるシーンがあったが、ああいうシーンは壁があるため壁の中にカメラを入れる。透明な壁に囲まれた唯一無二のシチュエーションで、外部からの孤立をうまく視覚的に表現している。

『愚行録』での妻夫木がガラス張りの店内で、店長を鈍器で殴り殺すシーンも想起した。俯瞰のショットでしかも無音、そして定点。この三拍子が揃うとなお不気味だ。

Amazonのオリジナルドラマ『ナチ・ハンターズ』でもガラス張りのバスルームに閉じ込められた老婆が、シャワーから出てくる毒ガスに苦しむ姿を最後は俯瞰で捉えている。

犬化した摩耶の造形、モーションともに良い。コンテポラリーダンスのように体をくねらせ迫ってくる姿は芸術的で美しく、怖さを忘れて見入ってしまった。

ホラーにはそこまで端正なストーリーを求めていない自分としては楽しめた。そもそもオカルトに整合性はない。それよりも、観ていて楽しい奇抜なアイデア、バケモノの造形、Jホラー的な文脈で構築される映像に注目してみると、質の高い作品なのは間違いないと思う。

キャストありきじゃない作品にもこれだけ人が入っている。単純に映画として普遍的に観たいと思うものに人が入っていることこそ正しいムーブメントだし、媚びを売らない気骨のある作品が若者に意識的ではなくても多く観られていることを喜びたい。
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