島田大輔

ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえの島田大輔のネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

ナチス・ドイツ ヒトラー、ゲーリングが1933年から45年にかけてヨーロッパ各地で略奪した芸術品の総数は約60万点にのぼり、戦後70年以上経った今でも10万点が行方不明といわれる。その美術品にまつわるドキュメンタリー映画。

大ドイツ芸術」展と「退廃芸術」展
ナチスがプロパガンダの一環として利用した1937年から毎年開催された国家公認芸術のための展覧会。
目的はアーリア人第一主義を正当化するため推薦と批判の芸術を対比した

政治的に質素な農民の絵、母と子のテーマ、健康的で優美な裸体画がもてはやされ、写実的でわかりやすい古典主義的作風を好む。
これは日本の戦前教育にも通ずるものか。
一方、ピカソ、ゴッホ、マティス、モンドリアンなどを非難する「退廃芸術」展は、印象主義、キュビスム、新即物主義などの作品が披露された。
ただし、皮肉なのか、同じ彫刻家がこのふたつの展覧会に同時に出品しているのは面白い。勿論作風をかえて、ルドルフ・ベリングアーリア人の鑑として脚光を浴びていたドイツ人プロボクサーのマックス・シュメリングのブロンズ像は「大ドイツ芸術」展で、抽象的な彫刻作品の《三和音》と《真鍮の首輪》は「退廃芸術」展で展示された。
この矛盾は、ナチ党員の中でも統一しておらず、エミール・ノルデは退廃芸術とされたものの、ヘルマン・ゲーリングは収集していた。
退廃芸術認定で国外逃亡したマックス・ベックマンの作品も、ナチ党員の家に飾られていたという。

略奪された後の文化財返還問題まで描く。 

歴史の流れ、美術品の運命を描くのはためになり、良く、美術が国家間の武器になり得るというのも面白い。

ピカソは最後の数分のエピソードに終わり、
ゲルニカを誰の作品かといった際に、あなた方の所業ですと答える。
20世紀を代表する芸術家として象徴的に扱われているはいるが、詰め込みすぎで、まとまりがないように思える。

グルリットの隠された美術品だけにスポットを浴びても良かったように思える。

『ヒトラーVS.ピカソ」
といわれるように強烈な題とは趣が違う。
むしろ、
「ナチスと奪われた名画のゆくえ』
の方が妥当であろう。

ただナチスだけの事をえがえているが、
一時的にナポレオン美術館と改名された事のあるルーヴル美術館は、ナポレオンの略奪品も多い。「泥棒美術館」と揶揄される大英帝国博物館もまたしかり。

「芸術家は悲しみや喜びに敏感な政治家であるべき」ピカソ