HAYATO

クロースのHAYATOのレビュー・感想・評価

クロース(2019年製作の映画)
4.1
2024年410本目
欲のない行いは人の心を動かす
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サンタクロースの誕生秘話を全く新しい伝説として描いたスペイン産の長編アニメーション
寒くて暗いスミレンズブルクの町にやって来た落ちこぼれ郵便配達員のジェスパーは、人を寄せ付けない不思議なおもちゃ職人・クロースと出会う。町の住民におもちゃを配り始めた2人の間には友情が芽生え、やがてそれが長年争っていた住民たちの間のわだかまりを解いていく。
監督は、『怪盗グルーの月泥棒』の原案者であり、『ヘラクレス』などのディズニー作品にアニメーターやキャラクター・デザイナーとして参加してきた世界的なクリエイターのセルジオ・パブロス。内山昂輝(ジェスパー役)、玄田哲章(クロース役)、中村千絵(アルバ役)、塩田朋子(ミセス・クラム役)、斉藤次郎(モーゲンス役)らが日本語吹替えを務めた。第92回アカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネート。
本作の魅力は、サンタクロースについて誰もが思う「どうして?」に丁寧な答えを用意している点。煙突から家に入る理由、空を飛ぶトナカイの謎、悪い子リストの誕生秘話など、誰もが抱く素朴な疑問に対して、真摯かつユーモラスに解釈を与えている。
本作は、子ども向けのファンタジー映画の枠に収まらず、憎しみや対立の克服といった社会的なテーマにも踏み込んでいる。クラム族とエリングボー族は、長年続いてきた争いを「伝統」と捉え、一向に争いを止めようとしない。しかし、ジェスパーとクロースの行動をきっかけに、子どもたちが思いやりや優しさを学び、やがて大人たちの心も変わっていく。この新しい伝統を芽吹かせる展開は、現代社会が抱える分断への希望を示しており、大人にも深い印象を与える。
主人公・ジェスパーは、物語を通じて自己中心的な性格から脱却し、他者の幸福を喜ぶ人間へと成長する。彼の贈り物が子どもたちの純粋な喜びを呼び起こし、それが町全体の憎悪を溶かしていく過程はとても感動的だ。一方、クロースは、単なる「善人の象徴」ではなく、喪失感や孤独感を抱える人物として描かれている。妻・リディアとの過去が静かに示されることで、彼の内面に潜む哀しみが際立ち、彼を「伝説的存在」ではなく「ひとりの人間」として感じることができる。新しい家族を得る彼の姿は、孤独の克服という普遍的なテーマを体現している。また、サーミ族出身のアルバは、教育というテーマを物語に深く結びつける重要なキャラクターだ。彼女は最初、町を出るためだけにお金を貯めていたが、物語が進む中で教育者としての情熱を取り戻していく。子どもたちが文字を学び、手紙を書いてサンタへの思いや願いを伝えるようになる描写は、教育がただの知識の付与ではなく、人と人をつなぎ、心を通わせる手段であることを教えてくれる。
セルジオ・パブロス監督が提供する「進化した2Dアニメーション」は、見事なライティングと陰影表現で、手描きアニメーションに新たな風を吹き込んでいる。特に、スミレンズブルクの暗い町並みが次第に明るく変化していく様子は見事。クロースが「雪の風」を感じるシーンや、カエルのおもちゃが初めて町に希望をもたらすシーンなど、ファンタジーとリアルのバランスも絶妙だ。キャラクターたちのコミカルなやり取りや、スラップスティックなギャグも適度に挿入され、笑いながら物語を楽しめる。
サンタクロースの実在感をぼかした締め括りも秀逸。
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