コミヤ

ワイルドツアーのコミヤのレビュー・感想・評価

ワイルドツアー(2018年製作の映画)
4.7
オールタイムベスト級。

植物たちの一つ一つが生態系を構成するように、そこで生きる人間も山口という街を構成する要素である。その人間一人一人に対して血の通った人間として接している本作は同監督作「きみのとりは唄える」同様に映画内では完結しない、奥行きがあり開かれた世界が描かれているという自分の大好きな映画だった。本作では未来の担い手である子供たちに焦点を当て、彼らの第二の視線といえるスマートフォンの映像を通じて物語が進行する。その視線はオープニングとラストで重なることで、人間という要素たちが影響を与え合っていることが示される。そしてその影響は山口に留まらず飛行機に乗って世界中へと拡散されていく。70分という短い時間に人間の無限の相互作用という大きな主題を描いてしまっているように思えた。

そして登場人物に血を通わせるためには目線が重要であることを痛感させられた。
今授業で初めてフィクション映画の撮影をしているけど、一度も目線の演出を考えてなかった。撮った素材を見返して役者が必要以上に瞬きしたり、意味もなく凝視したりと演出された作り物の人間のように映ってしまっている。本作の役者たちの演技自体に巧さを感じなかったけど目線のやりとりや会話の間などの演出によって生きた人間として映っていた。生きているから登場人物たちの言動について誰かと語り合いたくなってしまう。

2018年の夏に自転車で西日本を回り、休養日に山口に2日間滞在した際に、本作の舞台であるYCAMに2日とも寄った。昼間は図書館や展示を楽しんだり、公園でのんびりして過ごした。夜にはシングストリートの野外上映を見た。合宿では7県回り、山口県は特に期待してなかった分、やけに心に残った。それはYCAMを中心に街が豊かさを放っていたからだと思った。同期と入った湯田温泉の足湯も映っていて嬉しくなった。
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