MasaichiYaguchi

僕に、会いたかったのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

僕に、会いたかった(2019年製作の映画)
3.7
このところ幼い子供を含む死傷事故が多発していて寒々とした思いを抱いていたが、隠岐諸島を舞台に記憶喪失の主人公を巡る人々の物語は、観ている者の心に「天使のはしご」を架けて、優しさや温もりを届けて癒してくれる。
EXILE のTAKAHIROさんが演じる主人公・池田徹は、ある事故で記憶を失い、漁師でありながら漁に出られなくなってしまったのだが、彼の母・信子、幼馴染みで高校の教師・坂本雄太、島の医師・門脇大、そして漁師仲間に見守られ支えられ、失われた何か、その何かさえ思い出せないという葛藤や苦悩の中で日々生きている。
そんなある日、例年行われている島留学の若者達がやって来て、彼らと接していく内に徐々に“変化”が現れていく。
記憶喪失した徹だけでなく島留学した若者達、木村めぐみ、横山愛美、福間雄一の3人も、夫々悩みや問題を抱えている。
この作品は背景や状況を説明するような台詞や展開を極力排し、キャスト達の仕草や表情で“空気感”を作り出していく。
そういった“表現力”が求められる本作をしっかり支えているのが、信子役の松坂慶子さんであり、門脇役の小市慢太郎さんだと思う。
島留学の若者達が抱えた問題、徹の失われた記憶は後半から終盤にかけて明かされていく。
特に徹の失われた記憶にあった“掛け替えのないもの”には心を揺さぶられずにはいられない。
何もないように思える離島の生活が、逆に今の日本、特に都会で失われた人に対する優しさや絆、そして心に焼き付くような美しい自然というお金では買えない豊かさに満ちていることを感じさせる本作は、ある意味、その豊かさによる“家族の再生物語”と言えるかもしれない。