螢

フォードvsフェラーリの螢のレビュー・感想・評価

フォードvsフェラーリ(2019年製作の映画)
3.8
カーレースの最高峰とも言われるル・マン。1966年、当時6連覇を果たしていた絶対王者イタリア・フェラーリ打倒に挑んだ、アメリカ・フォード側に属した人々を描いた実話に基づく物語。

レースシーンの、ハラハラ、ドキドキ、始終手に汗握る大迫力の音響と映像は、映画館の大スクリーンでこそ観る価値があります。
そして、後味重視のアメリカ映画には珍しい寂寥感と悲哀、加えて、それだけでないものが静かだけど熱くこみ上げるラストが故に、より一層強く胸に残ります。

1963年。大衆車メーカーとして一時代を築きながら停滞気味になっていたフォード。打開策とイメージ戦略のため、高級でスポーティーなイメージが世に定着しながらも経営不振に喘いでいたフェラーリを買収しようと試みるが、すんでの所でご破算にされただけでなく、創業者エンツォ・フェラーリに手酷く侮辱されてしまう。

フォード創業者の孫で最高責任者であるヘンリー・フォード2世は大激怒。幹部たちに、フェラーリの象徴であり誇りでもあるル・マンにてフェラーリを打ち負かすように命令する。声をかけられたのは、1959年にアメリカ人レーサーとして唯一ル・マンを制覇し、現在は持病ゆえにレーサーを辞めてカーデザイナー兼販売会社を経営しているキャロル・シェルビー。
シェルビーは勝つために、旧知の友人で、天才的なレーサー兼開発者でありながら偏屈なケン・マイルズをパートナーに選ぶ。
けれど、プロモーションイメージにそぐわないケンを排除しようとするフォード側の人間もいて…。

ル・マン他、レースシーンの大迫力と見どころ満載の作り方具合は、これぞハリウッド。7000回転の時速三百キロのスピード感と音、大破する車の壮絶さ…。
そして、個人vs会社組織、現場vs事務方の対立軸…もっと極端に言えば、カーレースがレーサーやそれを支える現場の人々にとっては一世一代の大事な勝負の場でも、そんな経験のないスーツ組の企業人にとっては、それよりも、数ある中の製品テストの一つの場であり、企業イメージを高めて別の大衆品を売るための宣伝広告の場であるという、埋まらない溝と軋轢を痛感させるテーマをうまく盛り込んだ手腕は見事だと思います。

その対立が生み出した、シェルビーとマイルズを襲った衝撃的なラストと来たら…。強く胸に残ります。

でも、だからこそ、レーサーとして業界でのキャリアをスタートし、誰よりも美しく速い車とレースに人生を賭けていたエンツォ・フェラーリの、敵を認める対照的な姿にジーンとくるものもあります。

ストーリー自体はシンプルで、基本的にはアメリカ娯楽映画の王道ラインを踏襲しているタイプの作品です。けれど、映像と音の迫力が本当に凄いので、これは絶対に映画館の大スクリーンと好音響で観るべきです。
螢