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DUNE/デューン 砂の惑星のnetfilmsのレビュー・感想・評価

DUNE/デューン 砂の惑星(2020年製作の映画)
3.8
 完全なる形でのデヴィッド・リンチ版もアレハンドロ・ホドロフスキー版も観たかった世代だが、今回のドゥニ・ヴィルヌーヴ版も悪くなかった。ドゥニ・ヴィルヌーヴの演出はSFには比重を置かず、上品な大河モノのソープ・オペラに仕上げており、他の凡庸な監督に原作権が渡るよりもよっぽど有意義な作風になっていることに心より安堵した。どこまでも拡がる広大な砂漠、風に舞う砂嵐、そして飛行船のボディなど、SF一辺倒ではなくどこかエスニックな香りが音楽も含めて全編に漂う。2021年の映画は人種の偏りなど許されない雰囲気があるが、カインズ博士もユエ医師もダンカン・アイダホまでバランス良く配置する。後半の謎の先住民族であるフレメンの描写などは根底に流れるエスニックな雰囲気にぴったりだ。オープニングとエンディングを貫くポール・アトレイデスとレディ・ジェシカとの母と子の葛藤に関しては監督の旧作『灼熱の魂』とも親和性が高く、なるほどこんな手もあったのかと感心しきりだった。

 いつも予告編と比較してばかりで申し訳ないが、ティモシー・シャラメのアイドル映画の趣だった予告編に対し、ドゥニ・ヴィルヌーヴの想像主フランク・ハーバートの原作への弛まぬ愛がマニアックに炸裂している。特にメランジと呼ばれる香料の採掘場面の描写は息を呑むような素晴らしさと忠実な再現力で、21世紀にドゥニ・ヴィルヌーヴを起用した意味も意義も見出せる。憎しみと罠、そして無法地帯となる弱肉強食の世界に僅かだが垣間見える希望。そういった言葉にならない幾つものエッセンスをヴィルヌーヴは155分という限られた時間の中に映像世界として丁寧に紡いでいく。ヨハン・ヨハンソン亡き後のハンス・ジマーとのコラボレーションもヴィルヌーヴの映像世界と圧倒的に相性が良い。

 然しながらそれでもなお、原作のディテイルを忠実に再現した今作の語りは駆け足でかなり混乱していると言わざるを得ない。原作を読んで、84年のデヴィッド・リンチ版『DUNE/砂の惑星』をしっかり観た上で、『ホドロフスキーのDUNE』の細部まで確認した上で観ていてもやはり語り口は難解で、まったくの初見で臨む人には用語も含めておそらく、何が何やらさっぱりわからないだろう。予知夢を見たティモシー・シャラメが遂にゼンデイヤに出会う場面だけはなかなかのエモさで香ばしかったが。もっともドゥニ・ヴィルヌーヴ自身は『ブレードランナー 2049』の時以上に、最初からビギナーへの理解など意に介していない感すらある。『スター・ウォーズ』シリーズの失速の原因は様々な事情が考えられるが、ジョージ・ルーカスが9部作の着想を明らかにした時点で我々の興味が9部作42年間持たなかったことに尽きる(私の中では4,5,6だけで良かった)。その意味では前後編2部作をドゥニ・ヴィルヌーヴにお任せするというワーナーの判断は現時点では正しい。ポールはフレメンの世界にこうして導かれる。クウィサッツ・ハデラックやベネ・ゲセリット等の用語の概念、砂虫(サンドワーム)の真価もまだここでは発揮されずにいる。お楽しみはまだこれからという印象だ。
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