一人旅

グレース・オブ・ゴッド 告発の時の一人旅のネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

第69回ベルリン国際映画祭銀熊賞。
フランソワ・オゾン監督作。

フランスのカトリック神父が長年にわたって数多くの児童に性的虐待を行っていた実際の事件を題材に映画化したフランスの鬼才:フランソワ・オゾン監督の新作で、事件の被害者である男性達が神父及び教会を相手に訴訟を起こしていく様子を克明に描写した力作です。

『バッド・エデュケーション』(04)、『ダウト ~あるカトリック学校で~』(08)、『スポットライト 世紀のスクープ』(15)のように、神父による児童への性的虐待を題材とした実録ドラマで、フランス・リヨンの70歳になるプレナ神父に少年の頃に性的虐待をされていた男性達が「被害者の会」を立ち上げ、神父に法の裁きを受けさせるべく一丸となって奔走する様子を、訴えの発起人となった5児の父親:アレクサンドル、アレクサンドルの活動に突き動かされて「被害者の会」を創設したフランソワ、幼い頃の性的虐待で心に深い傷を負い現在もその後遺症に苦しみ続けているエマニュエルら3人の虐待被害者の男性の視点を中心に、彼らの家族や恋人との関わりと共に描いていきます。

ボーイスカウトをしていた少年時代に、隊の指導員だった神父に繰り返し性的虐待を受けたものの、それを公にすることなく自分の記憶の中に封印したまま大人になった男性達が、数十年の年月を経て、今や70歳の高齢となった加害者神父の許されない罪を初めて糾弾していく実録ドラマで、勇気ある一人の男性による告発を発端にやがてメディアを巻き込んだセンセーショナルな大事件に発展していく様子を、神父による虐待が行われていた生々しい過去の回想を交え克明に描いています。

80人以上の児童に性的虐待を働いていた小児性愛者の加害者神父のみならず、神父の性癖と罪を認識しておきながらその事実を隠蔽し続けた歴代枢機卿及びカトリック教会の欺瞞と保身に満ちた体質を糾弾していく社会派な野心作であり、同時に、虐待被害者である男性達が抱える癒えようのない心の傷の深さや、少年時代の悲痛な叫びに耳を傾けてくれなかった無関心な父親との確執、虐待が行われていた当時息子の被害を理解し事態解決に努めたものの力及ばずに終わった両親の無念と後悔、常にそばで支え続けてくれる妻子との信頼と絆…と苦悩と葛藤と希望の群像人間ドラマとしても優れたフランソワ・オゾン監督最新作であります。
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