死んだコメディアン

システム・クラッシャー/システム・クラッシャー 家に帰りたいの死んだコメディアンのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

随分前から宣伝をしてたので気になってました。
ドイツの映画ですね。感動的な映画かな~っと期待してたけども、とても現実的な作品でした。

何度も反芻して考える。何度も何度も。
何が悪かったのか、救いの道はあったのか、
どこから見直す必要があったのか、虐待した父か、
受け止めきれなかった母か、問題を起こすベニーか、
マニュアル通りにいかない事に右往左往するカウンセラー陣か

問題児を矯正するシステムに対して尽く
エラーを出す9歳の少女が主人公。
彼女は自分に悪意を向ける者や、自分の意に沿わないと喚き散らし暴力を振るう。欲しいものは盗む。

医者やセラピスト、カウンセラーが色々と努力するが成果は出ない…というような内容。

私は社会のルールや暗黙の了解はどうやって学んだんだろうか?時には殴られ、時には怒鳴られながら社会のルールを身に着けてきたのか、家族を周りを見て習ってきたと思う。

そういう環境や機能が完全に壊れている状況でベニーは生きているのだけども、作品の中で彼女が見せる感情?想い?は、ただ純粋に母親に…誰かにそばにいて欲しいと言うもの。

9歳児なんだから当たり前だし、お別れのアルバムや写真を大事にしてたり、泣き崩れるカウンセラーに付き添ってあげたり、赤ちゃんを愛おしいと想う心はあるし、盗んだ鞄は母親に喜んで貰おうとしたプレゼントだし、自分を大事にしてくれる人には甘えるしで、単純に凶暴で手が付けられない訳ではなく更生が出来そうな雰囲気はシーンの端々に散りばめられていた。

そう考えると表面的には優しく接していても、
甘えてくる彼女に対して「仕事」として線引きして距離を取るカウンセラー陣では彼女を根本的に救う事は出来なくて当たり前で矯正プログラム自体がクラッシュしているんじゃなかろうか?とも思う。

とはいえ生半な同情では受け止めるのは無理。
半生を彼女に捧げる覚悟が…と考えると家族頑張れになるんだけども…。

母親も精神的にだいぶ疲れ果ててしまっていて、破天荒なベニーの性格が弟や妹の教育に影響を与える事を危惧して彼女に別れも告げずに完全にベニーと決別してしまう。冒頭からカウンセリングの集会に来なかったり遅刻したり、電話に出なかったり表面上は頑張ろうとしてるけど完全に鬱とかノイローゼの部類。責任感がないと批判が殺到してるが…この母親の心が救われないと根本的に解決しない。

「あなた達プロでも手に負えないんでしょ?
 私には無理よ…」

いや、違うんだよ。貴女にしかできない事、貴女だけが彼女に与えられる物が有るのよとも思いつつも、そこまで追い詰められているのね…。

最後の顛末はベニーの見た夢なのか、監督としてはシステムに適応できない子を始末する結末か、色々と迷った結果なんだろうかね。

エンディングに流れる「私には何も無い」って感じの歌詞が印象的でした。

最後まで破天荒で救いもなく暴れ回る彼女ですが、いつも元気溌剌で鬱々としないのが救いですね。

大人になって素敵なレディーになった時に、
あの頃は荒れてたわ〜って笑い話になれば良いな。良いなぁ…。

しっかし叫ぶ叫ぶ子役さん凄いわ。