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在りし日の歌のmarFyのレビュー・感想・評価

在りし日の歌(2019年製作の映画)
4.2
人生は、苦しみの連続だ。
苦労した分だけ報われるなんてことはなく、時に大切なものは理不尽に奪われて、個人ではどうすることもできない時代の流れに無慈悲に翻弄される。
それでも涙を拭いて、体に鞭を打ち、仕事をして、飯を食らう。
生きるとは、そういうことなのだろうか。

平日の午前中ということもあってか、劇場は自分以外にはお年を召した人たちばかりで、なんだか場違いじゃないか、まだ若い自分にはこの作品の良さは十分に理解できないのではないかと不安を抱えながら、スクリーンで展開される1組の夫婦の人生を追体験した。

過去と現在を行き来しながら、息子を亡くしてから凍りついたままの彼らの時間がゆっくりと融解していく様子が、丁寧に描かれていた。
登場人物に誰一人として悪人はいない。けれど皆弱くて脆くて、それゆえに自分や大切な人を不幸にしてしまう。その様子が切なくて、愛おしい。
中国人って日本人以上に家族とか親戚の結びつきって強いから、家族に対する愛憎の強さもまた全然違う種類のものになってくるんだろうな、なんて。

それに、(悪名高き)文化大革命の時代が終わり、独りっ子政策、改革開放、急速な経済発展と目まぐるしく変遷する中国の景色をバックにすれば、ありふれた夫婦の生き様も壮大なドラマになるよなぁ。
80年代と現代の日本の様子はそこまで変わらないのに、隣の国ではあれほどまでに多くのことが変わっていたなんて、知識としては知っていたけど改めて見せつけられるとにわかには信じがたい。

そしてラストの表題「地久天長」「So Long My Son」がどアップでドンよ。
全てが移り変わっても、変わらないものがある。酸いも甘いも経験し尽くしたヤオジュンとリーユンの最後のあの表情。
辛いこともたくさんあったけど、それと同じくらい幸せな時間もたくさんあったんだろうな。

時の流れだけが、すべての傷を癒せるんだろうな。
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