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地獄の黙示録 ファイナル・カットのmarFyのレビュー・感想・評価

4.5
妻と離婚してまで戦場に戻ってきた陸軍将校が、軍の極秘指令を受けて、ジャングルの奥地に閉じこもった元エリート軍人を殺しにいくお話。

緊急事態宣言発令後、最初に劇場で観る作品はこれだ!と思いようやく足を運んだ。
REDUX版をレンタルで借りて、原案となったコンラッドの『闇の奥』も読んでの、いざ完全版。
記憶が新しいうちの2度目の観賞ということもあり話の流れも頭にスッと入ってきて、初見では気づかなかったディテールもいくつか読み取れた気がする。

黙示録=apocalypseは「神しか知り得ないことの記録」であり、その語源はギリシア語で「覆われていたものをはずすこと」を意味する。

一般には戦争映画と認識されている(ぼくも観るまではそう思っていた)本作だが、ザ・戦闘!みたいな絵面はキルゴア中佐のくだりくらいで、その他は(戦争映画としては)比較的地味なシーンが続く。それに、本来的であるはずのベトコンの姿はほとんど直接的には描かれていない。
このことからも、本作は戦争を題材にしてはいるがそれは比喩でしかなく、戦争を通じてより抽象的な何かを描こうとしていたように感じた。構成的にはむしろ、ロードムービーに近いように感じた。

ではその「描きたかったもの」は何か?
その答えは全編を通して大きな存在感を放つ、マーロン・ブランド演じるカーツ大佐と関係があると考えられる。
ウィラード大尉に指令を与えた指揮官は、カーツ大佐に対して「頭のイカれた反逆者」程度の認識しかなかった。しかし、下流から上流へと川を上っていくにつれ、寝返った先任の任務担当者やカーツを神格視するカメラマンなど、彼を「驚嘆すべき存在」と認識する人が現れてくる。
彼を追うウィラード大尉も、川を上りカーツについてより深く知っていくうちに、彼の存在がより大きく、無視し難いものになっていった。

カーツは文字通り"闇の奥"にいて、ヒトの根源を支配するものに気づいた。いや、気づいてしまった。
戦争は人々に狂気を呼び起こし、道徳、感情、理性、責務といった「あらゆる人間性」を徹底的に破壊し、根源にあるそれを明らかにさせる。
サーフィン狂いの指揮官もステージでの乱痴気騒ぎも指揮官を失った戦場も絶望に打ち拉がれるフランス人農園領主も狂気にかられる哨戒艇の乗組員たちも、程度は違えどそれに支配されている。

恐怖だ。
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