ユンファ

屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカのユンファのレビュー・感想・評価

4.5
ファティ・アキンの映画は初めて見るが、ファーストカットから引き込まれた。
ブリーフ一丁でデブスの死体を処理する、これまたドブサイクなホンカ。
散らかり放題な部屋の壁には、若い女のヌード写真がところ狭しと貼られている。
その姿は何とも面倒くさそうで、下の階のガキンチョが電気を点けただけで死体を放り投げるほどのビビリだ。
アバンタイトルのわずか数カットで、主人公は誰で、どんな人間で、どういった生活環境にいる人間なのか、その全てが無駄なく提示され、同時にキャラクターに共感させる。
素晴らしい。映画はこうでなくては。

開巻早々、ホンカは若く美しい女性にライターを差し出し、何かが始まるかと思いきや何も起こらない。
そう、「屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ」は基本的に何も起こらない映画だ。
観る人によっては退屈極まりないだろうが、劇的な何かが起こらないこと自体がテーマなのだから致し方ない。
ホンカが足繁く通う場末の飲み屋ゴールデン・グローブには、「ツイン・ピークス」に登場しそうな濃い面々が集う。
その様は滑稽だが、戦争や貧困など、自身の努力ではどうしようもない事情で各々が社会の底辺にいることを想像させる。
店のカーテンは完全に閉じられ、常に社会から隔絶されている。
そんな彼らは傷を舐め合うが如く店に集うが、お互いのことを良くは知らず、また知ろうともしない。
ホンカはそんな生活に何かしらの変化を起こすため行動する。
画面は明転し、それまでとはうって変わった別世界へと飛び出すのだ。
ところがその目論見は失敗し、飲み屋の仲間は温かく彼を迎える。
彼らは人生に劇的な変化を起こすことが出来ないことを知っている。
そうした意味で、本作は「ジョーカー」や「万引き家族」「パラサイト」等とも通ずるが、その中で最も容赦のない描写が連続する。ちらりと映えるチンチンが見れるのは、もちろん本作だけだ。

極めて薄く表面的な人間関係が、性欲と暴力で結び付いていく快感。
短いカットを積み重ね、クライマックスの長回しへと収束させる演出の手腕。
何処をどう切り取っても最高だ。
時折覗くホンカのポークビッツが、どんなに右手を使ってもフランクフルトにならなかった。
画で語るとは、こういうことだ。
ユンファ

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