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風をつかまえた少年のodyssのレビュー・感想・評価

風をつかまえた少年(2019年製作の映画)
3.6
【マウライを知っていますか?】

マラウイという国を知っているだろうか? 私はこの映画を見るまで知らなかった。アフリカ南東部に位置し、南はモザンビーク、北東はタンザニア、北西はザンビアに囲まれた、南北に細長い内陸国。

農民は貧しく、政治も有効に機能していない。「民主主義は他の地から来た食物と同じですぐ腐る」なんてセリフも出てくる。農民の持つわずかな財産、つまり土地に生えた木を燃料として狙う企業も登場する。

干ばつで農作物もとれなくなった極貧の農家。息子は中学生だが、学費が払えないという理由で学校を追い出される。しかし彼は学校で教わった知識をもとに、風車で電気をおこして水を畑に入れる仕組みを考案するものの、周囲の理解がなかなか得られない・・・

実話だそうである。アフリカの貧しい国に暮らす人々の様子や、そうした中で学校で得た知識を現実に活かそうとする少年の奮闘ぶりが丹念に描き出されている。

監督を務めたイジョフォーはアカデミー賞作品賞受賞作『それでも夜は明ける』で主役を演じた俳優であり、本作品の原作(映画の邦題と同じタイトルで文藝春秋から邦訳が出ている)を読んで感動し、自ら作品の監督を担当すると同時に少年の父親役で出演。

アフリカの現実は、キレイゴトではすまない。だからこそヨーロッパなどへの難民が増加の一途をたどっている。本来、民主主義とはその土地に住む住民がしっかり自治機能を果たすということが前提だった。

自治機能を果たすということは、単に学級民主主義を国単位で実現するということではなく、その国で産業を興して経済的に自立するということを意味する。それはむろん、一部の企業が国民の土地や財産をわがものにするということとは、全然別物なのだ。

しかし、そういう原則が今のアフリカでは成り立たない。なぜか。
この映画はそういう問題を考えるためのヒントを与えてくれる。
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