KnightsofOdessa

The Illumination(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

The Illumination(英題)(1973年製作の映画)
4.9
[絶対的真実を追い求めた10年間] 99点

イルミネーション:啓発の瞬間に心が真実を直接覗き見ること

大傑作。ある男の10年間を90分で伝えるために、1年の出来事を9分に圧縮している…というわけでもなさそうだが、取り敢えず展開がめちゃくちゃ速い。一部の展開を楽しく省略している訳ではなく、出会った5分後には結婚してて、その5分後には子供がいるみたいな感じで、重要だろうが些細だろうがどんな出来事も全て盛り込んで等しいテンポで流されていく。まるで人生のように。主人公フランチシェクは当初"曖昧でない確かなことを教えてくれる"物理学を選び、後に医学/生物学→宗教と転向を繰り返しながらも世界の全てを理解しようと躍起になるが、広大で直視に耐えない現実を前に失望を重ねて試みは失敗に終わる。大学3年になってコースを選ぶことになったフランチシェクが"(全てを理解したいのに)まだ全然理解してないから何かを選ぶなんて早すぎる"とか言い始めるのだが、将来何がやりたいか選べるわけねえだろと選択肢に溢れた希望的未来を信じて学科分けのない大学に入って、結局やりたいことも決められずに一番なんでも出来そうな学科に入ってしまった自分の人生と重なりすぎて辛くなった。フランチシェクも専攻が固体物理だし…

そんな重苦しい題材を扱っている割に、撮影も編集も遊びまくってて、セックスするかと思いきや変な電子音が鳴って性交する石像に変わったり、祈ってる神父たちの禿頭を執拗に撮りまくったり、物理学科の教授の言葉に呼応するようにアインシュタインやハイゼンベルグの経歴を出してきたり、テンポを維持するための努力は欠かさない。

時間と空間の違いについて次元の観点から語る際、空間は自由に動けるが時間は一方通行とし、後者は動く"照明"であるとすれば過去と現在を照らし、未来は暗闇に包まれているという。しかし、本作品ではある瞬間において未来の断片を幻視する場面が存在する。『スパイ大作戦』のオープニングくらいの鮮やかさで時間を横断する瞬間であり、その時点における一つの絶対的真実=未来を提示してくれるのだ。その残酷さにゾッとしてしまった。
KnightsofOdessa

KnightsofOdessa