イトウモ

The Illumination(英題)のイトウモのレビュー・感想・評価

The Illumination(英題)(1973年製作の映画)
4.0
将来有望なポーランドの秀才が、物理学者を目指して大学に通うため上京し、精神の異常をきたしてスキゾフレニーと診断されて挫折し今度は生物学者を目指す。医療現場での自分と似た症状の数学者が、病に倒れていくのに絶望し、今度は神学者を目指す。

真理を目指す青年が挫折していく模様を、意味深長なフラッシュバックの羅列でつづるのだが、単なる断片的な実験映画ではなく、さまざまな生の痕跡こそ映画の根源であるという記憶に遡る。

ジョルジュ・サドゥールの世界映画全史であの有名なマイブリッジが馬のギャロップの撮影に成功したエピソードの初めには、科学が生き物の運動記録から「グラフ」を作成して発展しきたエピソードが紹介される。

映画のある側面は真実の一部を示すグラフであり、マイブリッジの達成は映画が科学的な知を映画の奇跡が塗り替える一瞬なのだ。

映画は真実の一側面で、いつも真実そのものであり損ねる。そのあり損ねの歴史を青年の挫折と、あらゆるものがなにかの「グラフ」に見える発狂にいたる過程で描く様は映画にしか描けない。

狂った彼の髄液を注入された蜘蛛がおかしな「ウェブ」を描き出す様は感動的な実験。

上京する青年の身体測定と列車での状況がホロコーストに重ねられるのもポーランド映画のブラックユーモアに思える。生の化学的な記録に宿る暴力性