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スキャンダルのnorisのレビュー・感想・評価

スキャンダル(2019年製作の映画)
3.8
2016年、前々々回の米大統領選の時期が映画の舞台。共和党の候補者討論会で司会を務めたFOXニュースの看板キャスター、メーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)がトランプの怒りを買い、一晩で十数回もTwitterを更新する事件から始まる。一方、朝の番組の顔だったグレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)はCEOロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)のセクハラを拒んで降格される。

この二人は実名の人物だが(そっくりに仕立て上げた特殊メイク技術がすごい)、3人目の#マーゴットロビー は複数のモデルを投影した架空の人物。さらに局に民主党を支持していること、レズビアンであることをひた隠しにしている同僚ケイト・マッキノンを配している(この二人は昨年の「バービー」でも共演している)。映画は、ロジャーがマーゴットに行ったハラスメントをリアルに描いており、このシーンは本作の白眉であろう。

まず、馘首されたグレッチェンが訴訟を起こし、ロジャーのセクハラ被害者に声を上げるように訴えて、FOXの女性たちが分断される中、メーガンは沈黙を守る。エレベーターにこの3人が乗り合わせて腹を探り合うシーンは第二の見せ場。

終盤はメーガンがついに口を開き、さらにグレッチェンの隠し録りが炸裂して、ルパート・マードックがロジャーに引導を渡すという結末である。

…というワインスタイン事件の前哨戦となった実話をもとにしているものの、本作の脚本はかなり良くできており、テレビ局の華やかな女性たちが交わす視線での描写も鋭いし、視聴率首位を誇っていた保守メディアであるFOXニュース(平均的な視聴者は68歳の男性)の内情が窺えて興味深い。セクハラがどれほどの傷を残し、人を当惑させ、恐怖させるかを訴えながら、映画はマーゴット・ロビーがFOXを去っていく姿を描いたが、この翌年、さらに8年後にトランプが大統領になるという歴史は、本作のプロデューサーであるシャーリーズ・セロンを手厳しく裏切ることになるのだった。
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