pop1281

ラストナイト・イン・ソーホーのpop1281のレビュー・感想・評価

5.0
開演前、エドガー・ライトの新作を劇場で観ることができる喜びに浸りながら、インドカレー店で空腹を満たしていると、ふと店内のBGMが気になった。エルトン・ジョンが故ダイアナ妃に捧げた「キャンドル・イン・ザ・ウインド」が流れていたからだ。そうだった、ここはアジアの片隅の小さな島国だったことを僕は忘れていたのだ。そんな国でも、エドガー・ライトの新作を劇場で観られるならば、まだマシな方だと気を取り直して劇場に向かった。
結論から言うとただただ素晴らしい映画であった。間違いなく2020年代を代表する一作として名を残すことになるだろう。

プロットはオーソドックスで監督がこれまでに手掛けた作品と大差はない。しかし前作「ベイビー・ドライバー」で収めた世界的な成功により、手にしたであろう予算と制作時間は彼の才能を遺憾無く発揮させる余裕を与えたようだ。
映画への愛をそのまま映画に還元できる才能を持つものは残念ながら限られているが、エドガー・ライトはまさしくその一人であることを証明した。ネタバレになるのかもしれないが、あのパルプフィクションのダンスシーンを超える演出に私たちはこの映画で出会うことになる。タランティーノはあと1作品を撮って引退するそうだが、時代は流れていくことは決して悲しいことだけではない。

さらに私の感動を誘うのは、この47歳の映画監督が文化の継承や女性の権利獲得の歴史に対して、表現者としての責任と敬意を持って対峙していることだ。もし、この映画からそのような姿勢を感じ得ないのであれば、それこそインド料理店でエルトン・ジョンが歌うことに違和感を持つことができな感性と知性と言える。

21時の開演。座席の間引きが解除された劇場で久しぶりに他者を隣席に迎え、忘れていたあの窮屈な気持ちと姿勢で、自分が2時間耐えることできるのか不安になった。
しかし、この映画を前にしてそんなことは杞憂であった。私を含めた観客は誰一人身動き一つせず、この映画の世界に引き込まれていた。
まさしく(劇場で観るべき)映画であり、その同時代生を見過ごすことは不幸である。
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