しょうや

ラストナイト・イン・ソーホーのしょうやのレビュー・感想・評価

3.5
最近お気に入りのTikTokerに10代後半女性でうつ病であることを公言しているひとがいる。彼女曰く、うつ病になる以前は他者からの叱責などに対し「うるせーな」といった態度を取れていたが、うつ病になって以来は全ての原因が自分にあると抱えこんでしまうようになったという。
そう、メンタルヘルスの問題とは、外的な問題やトラブルの原因を自身に「内面化」してしまうことにある。それゆえ、社会が混迷をきわめた現代において、日本だけでなく米国では10代のうつ病が急増し、コデイン(咳止めシロップに含まれる鎮静物質。USのラッパー・ジュースワールドはコデイン中毒で命を落とした)が社会問題になるのも納得がいく。

トーマシン・マッケンジー演じるエロイーズは、とりわけ「繋がる」(=内面化)ことに長けた人だ。そのため、本来繋がるべきでないとされる、霊界の肉親や、60年代のエンタメ業界の暗部を象徴する存在、アニャ・テイラー=ジョイ演じるサンディの霊体(?)の苦痛や精神の明暗を汲み取ってしまい、内面化し文字どおり「繋がって」しまう。
この映画で恐怖の主な対象となっているのは、思考の理解不能なシリアルキラーでも、グロテスクなクリーチャーでもない。男性からの視線や心ない言葉。女性が日常的に感じている恐怖そのものである。一見すると華々しい時代への憧憬が、ショービズ業界の中に数多く隠蔽されてきた(現代にも根深く巣食っているであろう)無数の理不尽な契約と虐待に染められる。

赤と青を基調としたネオンの光。キンクスやザ・フーも含む60年代後半を彩ったポップ・ミュージックの数々(そして現代のクラブ・シーンではスージー・アンド・ザ・バンシーズの名曲“イスラエル”が流れる!)。こうした過去のカルチャーに対して、エロイーズのように強い憧れを抱いている若い世代は、自分も含めて多い。しかし、光あるところに必ず闇あり。「知らない過去への憧れ=Vaporwave」になってはいけない。いつだって私たちは過去の華やかな部分を無邪気に消費するだけでなく、歴史的暗部との両側面から学んでいかなければならない。
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