蛇らい

モービウスの蛇らいのレビュー・感想・評価

モービウス(2022年製作の映画)
2.9
病人である2人にしか立ち入れない小さな世界と、意思疎通が丁寧に描かれていた。人々が行き交うニューヨークの雑踏の中にも彼らの場所があって、歪な歩き方でも、杖をついてでも街を歩く姿に普遍性を見出せる。その点、対立構造になったときに飲み込みやすい。

モービウスは、ヒーローでは珍しく自分の能力が覚醒したときに、徹底的に検証を重ねる。自身の博識の高さや、医師であるため、身体との向き合い方を熟知している。そうしたキャラクターの人間性や特徴を細かくとらえ説得力を持たせることができるのは、監督、脚本家として素晴らしい。

マイロもキャラとして魅力的なのだが、スーツスタイルにハイテクスニーカーを合わせるという中々のお洒落さんでもある。彼らの小さな世界、関係性の中にもホモソーシャルが確かに存在していて、マイロが血清を打つきっかけのひとつにもなっている。

そうしたイシューを示しているにも関わらず、モービウスはマルティーヌにあれを取ってこい、これをこうしろと見返りもなく指示を出しているシーンは引っかかる。これは、『THE BATMAN -ザ・バットマン-』のブルースとセリーナの関係でも同様のことが言える。

ストーリーとしては、モービウスの出発点であるため、キャラクター設定や世界観の定着に尽くした仕上がりだ。一本の映画としての完成度を犠牲にしている割には、能力の描き方に説明不足を感じる。

第六感的な描写は多々存在するのだが、それが映画的なエフェクトなのか、ストレートに能力なのか混同している。例えば、マルティーヌが意識を失ったときにバイタルサインを確認するショットで、口元に耳を当てている割に聞こえるのは心臓音というチグハグ感に疑問を覚えた。これは、第六感として心臓音が聞こえているのか、それとも確実なバイタルサインとして映画的に心臓音を挿入したのか、このような不明確な演出のチョイスが多々ある。

延命することが幸福であるか、否であるかというテーマ性も少なからずあるのではないかと感じる。育ての親と親友を失っていて、明らかに能力が幸福に結びついていない。『Arc アーク』とも重なる、まだまだ伸び代のあるテーマ性だ。

難のある作品ではあるが、個人的には、『ヴェノム』シリーズのような媚びだらけのファンムービーと距離を置いた作風で、好感を持てる。また、ジャンルとしても歴史のあるため、過去のバンパイアムービーを参照して観てみるのも楽しそうだ。
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