なっこ

82年生まれ、キム・ジヨンのなっこのレビュー・感想・評価

82年生まれ、キム・ジヨン(2019年製作の映画)
3.2
私が韓国のヒロインに興味を持つきっかけになった原作『82年生まれ、キム・ジヨン』

すごくオシャレに美しく映像化していると思う。原作小説と映画はやはり別物。けれど、この作品は、問題提起をした原作へのひとつの優秀なアンサーだと感じた。根底に流れている女性の生きづらさへの共感は全く揺らいでいない。男性であるヒロインの夫の視線を通して、その点をよく描き切ったと思う。どちらが先になっても良いと思う、このテーマに興味を持ったのなら、どちらも体験して、より多くの人が女性の人生について考えるきっかけになれば良いなと思う。

原作の方は、小説でありながら、韓国の女児の出生数の少なさなど、統計や時代背景などの注釈も充実していて、解説も詳しく韓国の女性の現状を教えてくれる良い本だった。これを読んだとき、最初の感想は、日本ではなぜこの本のような小説が生まれなかったのだろうかという疑問だった。

原作を読み通し映画化の話を聞いてクリップしてから随分と時間が経ってしまった。その間私は、多くの韓国の映像作品に出会ったし、韓国の現代文学にも触れて、映画作品が描き切れていない現実も少し想像できるようになった。女児より男児の方が望まれるのは日本でも同じだろうけれど、嫁が夫の家に仕えなければならないことが、序列として、嫁の家が夫の家の下に入るような、そういう勝ち組負け組にも似た構造になってしまうことが問題なのだと気が付いたのは随分後になってからだった。そういう序列を重んじるような考え方の風習を知っておかないと根強く残る女性が虐げられる状況への理解は深められないように思う。

この物語は、ヒロインの一代記ではなく、ヒロインの祖母と母の親娘から始まる物語。私たちが想像できるほど近くの過去から始まる。この母娘三代の呪いのようなものがヒロインの身に起こる憑依という怪奇現象を生んでいるのだろう。そうなれば、夫ひとりで立ち向かえるはずなどない。夫は三代分の呪いを解くだけの力を望まれているのだ。それは、過分な期待。女たちにかけられる呪いはそうやって受け継がれている、まるで眠りの森の美女のように。断ち切るにはそうとうに手強い相手だと男たちは知っておかねばならないだろう。コン・ユは、そんな同情すべき夫を見事に演じ切っていた。もちろん彼ひとりが悪いわけではない。気が付かないうちに優遇される方になっている者は、冷遇されている者の傷付きには鈍感なものだ。差別しようと思って差別しているわけではない。自分の与えられた立場によって力をふるっているにすぎないのだろうから。力を持ったときにこそ、その人の人間性は試されるものだ。上司になったとき、姑になったとき、親になったとき、夫になったとき、恋人になったとき、弱きものを守るはずの力が、相手を蝕む方向へはたらいていないか振り返る必要があるのだと思う。

映画のエンディングは小説の終わりよりもずっと爽やかで明るいものだった。現実を生きるヒロインたちの未来もそうであってほしいと思う。
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