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82年生まれ、キム・ジヨンのsomaddesignのレビュー・感想・評価

82年生まれ、キム・ジヨン(2019年製作の映画)
5.0
生き地獄百景亡者戯
鬼灯の冷徹のOPを口ずさみながら見てた
♪ここはじーごーくー じーごーくー
 たーのーしーいー じーごーくー

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結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨン。常に誰かの母であり妻である彼女は、時に閉じ込められているような感覚に陥ることがあった。そんな彼女を夫のデヒョンは心配するが、本人は「ちょっと疲れているだけ」と深刻には受け止めない。しかしデヒョンの悩みは深刻だった。妻は、最近まるで他人が乗り移ったような言動をとるのだ。

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やっと見れた!
期待値バンバン上げて、「保険教師アン・ウニョン」もみた上で鑑賞して、ちゃんと傑作。「パラサイト」を筆頭に、近年の韓国映画の充実っぷりを改めて体感。

原作未読。「原作はもっとエグい」「救いがない」「読んでてしんどい」等々の感想をよく聞くので、二の足をタップ踊れるくらい踏んでいる。

2016年に原作が韓国で出版。徐々にクチコミで広がり賛否両論・社会現象化。背景には同年5月に起きた『江南通り魔事件』の影響があったとも。男性の国会議員が300冊買って他の議員に送ったり、検事長のセクハラを告発したソ・ジヒョン検事が本書に言及したこともあって。現在は企業の人権セミナーなどでも本書が多く用いられているという
身近に劇中でてきそうなキャラが何人もいて(自分自身も無自覚に酷いことしてると思うし)対岸の火事ってより、自分の悪行含めて生き地獄めぐりさせられてる気分。
女性の生きづらさや、男性が生まれながらにして与えられている特権について分かったような態度も不誠実だし、男だって辛いんだって反論も的外れ。ひとまずは自分の姉妹・娘が体験したかもしれない事と思って共感と同苦を味わうつもりで鑑賞。

多面的に女性を取り巻く生きづらさを描いていながら、問題点をごっちゃにせず章立てで整理整頓してるのが凄い。無条件に男性が優遇されるし、家事労働の働き手として酷使される。実際、結婚出産するとキャリアを断たれる姿は実際に何度も見たことあるし、「女はいざとなれば結婚すればいいから楽だな」って言説は今でもよく聞く。自分自身満員電車にベビーカーで申し訳なさそうに乗り込んでくるママさんを疎ましく思ってた時期もあったりで、なんだかもう身につまされるし悲しくなる。何地獄だコレ。


コン・ユ演じる夫がまた優しく理解のある人なだけに闇が深い。
優しく育児にも積極的だけど、気遣いの方向性が間違ってるし終始漂う「分かっちゃいねえ」感が悲しいやら可笑しいやら。
一番好きだったのが「僕が育休とるよ。ちょうど読書や勉強したかったし」てセリフ。おめえは奥さんが家事・育児の合間に読書や勉強する余裕あるように見えてたんか?と観客全員が後ろ頭叩きたくなったハズ。

就活に難航するジヨンに対してお父さんが「大人しく家にいて、嫁にでもいけ!」って言葉にお母さんが激怒するシーンがいい。「大人しくするな!元気出せ!騒げ!出歩け!」て元気付ける。自分たちの世代がした苦労を、当然のように下の世代に押し付けず、理不尽にはどんどん声を上げて変えてしまっていい!って宣言にもなってる。
それがクライマックスのネットスラングで罵られるジヨンの行動に繋がってて、「まずは声あげてこう!萎縮する必要なんかない!」て勇気づけられた。

Netflix「保健教師アン・ウニョン」に続いてエキセントリックなキャラを好演したチョン・ユミ。毎日の家事・育児に忙殺されてボロボロになってるのと、彼女が抱える孤独が伝わる見てて辛くなる程の怪演。憑依シーンは目がバッキバキになってて、ホントにぶっ飛んでるか憑依してるみたい。撮影の前後で、心の健康状態をどう保ってたのか気になる。今後彼女の代表作になるだろうけど、似た役ばっかりオファーきそう。


余談)
女子高生の集団や若い女性の集団が沢山見にきてて共感の広がりが感じられて良かった反面、男性の観客が全然いなくて残念。男性こそ見た方がいいのに。
世界経済フォーラムが出す最新のジェンダーギャップ指数では、ついに日本が韓国に抜かれて153カ国中121位(韓国108位。前回は149カ国中それぞれ110位と115位)に転落。男尊女卑は対岸の痴話喧嘩と思ってると、全然日本の方がヤベエっぽい。

さらに余談)
日本版のキャッチコピー「大丈夫、あなたはひとりじゃない」が全然ピントズレててプチ炎上。対岸の火事じゃねえ&分かっちゃいねえっぷりが実体を持って現実に立ち上がってきたみたいで、映画と併せて記憶していきたい。

58本目
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