しの

フェアウェルのしののレビュー・感想・評価

フェアウェル(2019年製作の映画)
4.0
難病モノだが、むしろ異文化体験の観点でとても意義深い作品だと思った。中国とアメリカとそこに挟まれる日本、それぞれの価値観の違いが家族問題を通じて自然と浮かび上がる一方で、親戚あるあるや家族への思いやりには文化を越えた共感がある。明確な結論はないが、飾らない体験として価値ある。

末期癌であることを打ち明けるか否かというドラマは、あくまで西洋と東洋の間で主人公の価値観を揺らがせ、その先に優劣のない「家族への思いやり」を見出させるためのものだと思う。従って、あまり「難病モノ」の頭で臨みすぎないほうがいい。

個人的にはグローバル版『東京物語』だった。家族はみんなそれぞれの地でそれぞれの生活をしていて、今では国籍さえ違っている。当然、相容れない価値観もあるが、それはそれとしてみんな元の生活へ戻っていくしかない。でも、そんなの無関係に何物にも代え難いものが家族にはある。

主人公は中国生まれだが、価値観含めたアイデンティティはアメリカ人なわけで、母国とはいえ基本的にはアウェイだし、なんなら異なる文化(における親族とのコミュニケーション)に煩わしさを感じたりする。それでも最後には「帰りたくない」と言うし、それが家族というものなのだ。異文化受容を非常にミクロな共感で理解できる。

あの日本人嫁の扱いはアウェイだなぁと思うが、実際あんなもんなんじゃない?と思うし、それこそ飾らない描写だと思う。日本は個人主義にも集団主義にも振り切れていないので、側から見たら不思議なのだろうが、そう感じつつ一家も迎え入れようとしているわけだし。日本人の自分にとっては面白い視点だったし、この受容と主張のバランスは好ましかった。

また、監督自身が影響受けたと言うだけあって是枝イズムは感じた。全体的に飾らない家族描写がそれらしいが、特に主人公が祖母の健康法を教わるシーンは、長回しで自然に切り取られた家族描写でありつつ、ラストに活きてくる象徴的なシーンとしてしっかり印象づけているあたり巧い。

ただ、これだけ真摯に一家を描けているからこそ、あのラストの情報は不要だと思った。本旨はそこじゃないよ!ってことなのかもしれないが、だかこそ逆に最後で「難病モノ」の頭に引き戻されてしまう可能性があると思う。ついでに言うと、度々使用されるスローモーションや披露宴での回転カットは大仰で、あまり作品のトーンに合っていないと思う。

小津作品や是枝作品にも並ぶ洞察の深い視点で家族を描いているぶん、どうしても映画としての強度を比べてしまう部分もあったが、それだけ大切なことを描いている一作だと思う。
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