りっく

パラサイト 半地下の家族のりっくのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
5.0
ヒエラルキーという、世界中どこにでも存在するピラミッド型の階級。自分がどんな環境に生まれ育ち、どんな学歴や職歴を持ち、どんな家庭を持つか。それらによって定められていく社会階級は、一旦そのカテゴリーに入ると、なかなか抜け出すことができない。

だからこそ、作り手は直接的にせよ間接的にせよ、娯楽作品にせよ社会派作品にせよ、人間ドラマにせよSFにせよ、貧富の格差を映画で描いてきた。そして観客に対し、普段では耳を傾けてもらえない弱者の叫びを代弁し、あるいはフィクションの力を借りてヒエラルキーが反転するカタルシスを味あわせてきた。

だが、本作のソンガンホを一家の長とする家族はどうだ。地上でもない、地下でもない、半地下という隙間でしぶとく生き、嘆いたり怒っている暇があればとにかく行動し、狭い隙間に土足で入り込んでしまうような図太さ。まるでゴキブリや便所コオロギのような生命力だ。

人は演じる動物である。普段なら決して交わらない富裕層に身分を隠して近づき、一人また一人と寄生し、家族ぐるみのお付き合いとなる。だが、そこには用意周到な狡猾さや、富裕層に対するやっかみは意外と感じられない。ソンガンホ含む各キャラクターの人間力に、逆に問題を抱えた富裕層たちが寄り掛かってきているようにも見える。だからこそ、本作は面白さのレンジが抜群に広い。

それからは正体がバレるかバレないかのサスペンスを、ポンジュノならではの漫画的なコメディ演出と活劇性で滑稽さに優雅ささえ加えて描いてみせる。そこに主導権を取り合うパワーゲーム的要素も加わり、社会的にも物理的にも上下左右に縦横無尽に各キャラクターが動き回れることで、物語は一気に加速する。そのひとつひとつのシークエンスが技ありや有効ではなく、互いに一本背負いを決めまくるような展開の数々に胸が躍る。

そんな娯楽性たっぷりな作品は、観客の想像の遥か斜め上を行く、驚くべき世界の奥行きが顔を覗かせることになる。呑気な音楽と重ねられときたま不協和音のようなものが小さく聞こえてくる音で序盤からやんわり匂わせる繊細な演出も見事の一言。

拡がる世界とそこで暮らす人々。ここではないどこかを求める人もいれば、そこでこそ生きていける人もいる。そんな人たちは自分たちの敵なのか、同士なのか。そしてどんな場所が自分にとって居心地がいいのか。二転三転どころではない展開と、縦横無尽に動き回るキャラクターは、果たして落ち着きどころを見つけられるのか。

隣の芝は青く見えると言われるが、その笑ってしまうほどの、夢のような青さに憧れを持つ人はいるのか。そしてゴキブリでも青い芝に違和感なく立つことはできるか。そんな強烈な問いかけを、予想だにしない方向から鋭角に突きつけ、観客の心を抉ってみせる。紛れもない大傑作だ。
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