織田

風の電話の織田のネタバレレビュー・内容・結末

風の電話(2020年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

広島で叔母と暮らす女子高生・ハルが、様々な人の車に乗って故郷の東北へ向かう物語。

周囲が彼女にかける「どこから来たの?」の「どこ」はとても狭く、制服を着ている若者が彷徨うことができる範囲の限界を思い知らされる。高校の制服を着ているということは、家に帰らないと「いけない」存在で、見ず知らずの他人が親切心で手を差し伸べると火傷を負いかねないわけです。その火傷をしたくないから三浦友和もカトウシンスケも「帰れ」という言葉を使う。優しく"その場"は助けてくれるけど匿ってくれることはなく、気をつけて帰れよ、と別れます。
けれどハルには帰る家がない。帰りを迎えてくれる家族も、渡辺真起子おばさんが倒れたことで居なくなってしまいました。

帰る場所をなくしたハルは、心優しき支援者の車を乗り継ぎながら東へ、北へ。埼玉でクルド人のコミュニティに触れると、そこでは「クルド人は独立した方がいいと思う」「国があれば帰れるから」と帰る場所自体が存在しない人々を知ります。また、車で知り合った様々な人たちも大切な人を失ったりしていて、それでもなお生きていることを知ります。ハルの実家を襲った津波の他にも、豪雨や原発事故に由来する被害の様子が語られます。

震災で被災し、叔母が倒れたハルの境遇は確かに逆境だらけです。けれどもこの映画は彼女を見つめる私たちを「可哀想」とか同情という視点にいざなおうとは決してしないんですよね。あなたは生きていくんだよと、静かに力強く背中を押してくれる映画です。あたたかいごはんを食べるシーンは印象的。「生きるためには、食え」というセリフが独り歩きしません。

知らない人の車に乗ってはいけませんよとは昔から言われてます。実際に危ないですし、運転する側も乗せるリスクを知っています。それでもハルを東へ、北へ乗せてくれた3台の車。この世界もまだ捨てたものではないとハルも、私たちも思えたのではないでしょうか。終盤は少しファンタジックに取ってつけた感がありましたが、良い映画でした。
織田

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