震災から9年が早くも経つ。遺された人たちの時間は確実に流れている。そのことを受け入れられない人がどんな心境になるのか。当事者目線でゆっくりと語られる。
震災当時9歳で天涯孤独になったら人はどうなるのか。大人たちの中で精一杯生きてきた子が、支えを全て失った時に取る行動は、それまでの自分からは想像もつかない方向性を孕んでいる。
ハルは何かに頼らないと生きていけないのに、広子の欠落からは生まれ故郷のことしか考えられなくなる。未成年が自分をコントロールできなくなる瞬間を、どう映像に残したらいいかという問いに、この作品は答えている。決して破壊的ではなく、静かなる自己の崩壊から始まった旅路の行き着く先にある風の電話。そこからハルはどうやって生きていくのだろうか。私たちはこうして作品を観ることで、未だに震災の傷が癒えない、取り戻せない人たちに心を寄せることができるのかもしれない。