SANKOU

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

冒頭から絵本のような美しく可愛らしいウェス・アンダーソンの世界が展開される。が、見た目ほど可愛らしくないのはいつも通り。
フランスの架空の町で、一癖も二癖もある「フレンチ・ディスパッチ」誌の記者たちが、これまた奇妙なエピソードを記事にする様がユニークに展開する。
政治問題にアート、ファッション、グルメと何でもありの雑誌で、世界中の読者から愛されていた「フレンチ・ディスパッチ」誌だが、編集長が仕事中に心臓マヒで急死してしまう。
編集長の遺言では彼の死と共に雑誌の廃刊と部下の解雇が決まっていた。
やがて追悼号にして最終号に相応しい雑誌の全貌が明らかになっていく。
まずはサゼラックが自転車に乗りながら町並みをレポートする様子が映し出される。
軽快なリズムで町の光景が映し出されるが、川に流れ着く死体だとか、少年たちによる犯罪の風景だとか、結構毒が効いているパートになっている。
続いてベレンセンが語るある囚人のアートの話。個人的にはこのパートが一番面白かった。
凶悪な殺人罪で収監されているモーゼスは、隠れたアートの才能の持ち主であり、看守のシモーヌをモデルに獄中で絵を描いていた。
何故かモーゼスに夢中になっているクールビューティーなシモーヌの存在が面白い。演じるレア・セドゥの冷たい表情とセクシーなプロポーションがバッチリはまっている。
そんなモーゼスの絵に目をつけたのが美術商のジュリアン。
彼はモーゼスの絵を無理矢理説得して買い取り、彼の才能に投資する。
モーゼスはジュリアンに頼まれた通り、シモーヌをモデルに壮大な連作を描き出す。
しかしそれは監獄の壁に描かれたフレスコ画であり、外に持ち出すことが出来ない。
ついには囚人を巻き込んでのドタバタ劇に転回していく様は面白かった。
クレメンツが記事にする学生運動のエピソードは正直良く分からなかった。
彼女は学生運動のリーダーであるゼフィレッリと身体の関係を持って取材している。
そんなゼフィレッリに真っ向から対立するのがジュリエット。
ゼフィレッリは英語で話し、ジュリエットはフランス語で話すのだが、きちんと会話が成立しているのが面白い。
かなり情報過多で一度観ただけでは理解出来ない部分はあったが、暴動の最中にバイクに乗って駆け出していくジュリエットとゼフィレッリの姿は印象に残った。
最後はライトが担当するグルメパート。なのだが、全然グルメリポートではなくなってしまう。
ライトは警察署長に招待を受け、ネスカフィエという警察署一番のシェフの料理をご馳走になるはずだった。
しかし警察署長の息子ジジがギャングに誘拐されてしまい、それどころではなくなってしまう。
警察署長の作戦により、ネスカフィエは毒入りの食事を作り、空腹のジジに食べさせるためにギャングのアジトに乗り込む。
実はジジが嫌いな大根にだけ毒が入れられてあり、何も知らないギャング一味は食事を全部平らげてしまう。
毒味のためにネスカフィエも毒入りの大根を食べてしまうのだが、異様に胃が丈夫だったために助かってしまうのがおかしい。
もちろんジジは大根には手をつけなかったが、ギャングの親玉も大根嫌いだった。
ジジを連れて逃走するギャングと警察の追跡劇が始まるのだが、一番盛り上がるパートをアニメで表現してしまうぶっ飛び具合には驚かされた。
ショーガール役としてシアーシャ・ローナンが登場しているが、短い出番でも彼女はしっかりと印象を残す。
こうして雑誌は編集長への追悼の言葉を残すのみとなる。
デスクの上で横たわる編集長の姿がかなりシュールだ。
白黒とカラーを上手く組み合わせた映像と、流れるようなテンポ感のある演出は面白かった。
が、やや台詞が情報過多で置いてきぼりにされてしまう場面もあった。
機会があれば再度観直してみたい。
ひとつの雑誌が出来上がるまでの手作り感というか、ひとつひとつの記事に対する人間のこだわりが感じられる作品で、監督が描きたかったのもデジタルではないアナログなもの作りの姿なのだろうと納得した。
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