YukiSano

ブラック・ウィドウのYukiSanoのレビュー・感想・評価

ブラック・ウィドウ(2021年製作の映画)
4.0
世界中の抑圧された女性たちを救うために立ち上がった女性の物語。

戦争や国家の暴力、権力に利用され犠牲になった女性とハリウッドで虐げられてきた女優達を重ね合わせ、破格の制作費が投入された超大作映画。

かつてアベンジャーズが始動した時にケビン・ファイギがブラックウィドウの企画を立ち上げたら、当時のマーベルコミックの社長が女のヒーローものなんてヒットしないしオモチャも売れない、と言われて、ムカついてケビンはマーベル映画製作部門をマーベルコミック自体から独立させディズニーと手を組んだため自由でクリエイティブな製作が可能になった。という記事を読んだ記憶が曖昧だが残っている。

それが本当だとしたら、正に因縁の企画であり、悲願の達成である。ちなみに昔、シャロン・ストーン主演で007の企画もあった。つまりボンド女版のスパイものにしようとしたのだが、それも頓挫した。ハリウッドでは女性主演のアクション大作が作られることは滅多になかった。あったとしてもカットスロートアイランドのように大ゴケしてた。

しかし、それからアトミックブロンドとかワンダーウーマンとか出てきたので、もはや時代は追い付いた所で、何なら遅いくらいで登場したのが本作。

そこまで遅れたのなら、どんな話かと思えば、どストレートに女性解放がテーマだった。しかも世界一売れてるスーパーシリーズの最新作として本気で責任持ってぶち上げた感がある。

ハーヴェイ・ワインスタインにしか見えない悪役をナターシャが嘲笑い、女性達を自由にする。まさにスカーレットヨハンソンというマーベルの看板女優にまで上り詰めたトップ女優が超大作映画のタイトルロールを演じてハリウッドで責任を果たしたという凄いシーンだ。

そして、その看板を新たなる新人女優に譲り渡すという潔さ。若い女優達を先輩が解放して、ハリウッドに道を作って去るという後ろ姿がしびれる。

ご都合主義満載な展開でも、オープニングの家族描写に感情移入できるのでラストまでハラハラできた。洗脳された女性の解放を描き続けたケイトショートランド監督の生々しい性奴隷の直接的に見せない描き方が腹の底に残るので、その後の超娯楽主義の中にも重力が存在し続けている。低予算アートハウス系の女性監督にこんな超大作任せるマーベルは正にハリウッド業界そのものを変えようとしてるのが伺える。

いつだって今、世界がどんな問題を抱えているのか分かりやすく感じさせてくれるマーベルは常に本当のヒーローとは何なのか考察させてくれる。そこでいくとタスクマスターの存在が無視できない正義の闇を照らす。そう言う勧善懲悪になりきれない曖昧な部分こそがファルコン&ウィンターソルジャーとも繋がるマーベルの新たな覚悟に見えた。

そして本作は最高のスパイ映画であり、女性解放映画にして、いびつな家族映画でもある。あのぎこちない、下手くそな家族の絆とナターシャの活躍をもう一度だけ見たい。そう願わずにはいられないほどに素敵な登場人物達に囲まれた幸せな第1作目であり最終章。

とりあえず2代目と世界中に放たれたブラックウィドウの活躍こそが、女性達の本当の活躍と重なることを期待して、待ち続けます。

もちろんナターシャにも、また逢えることを期待して…
YukiSano

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