蛇らい

ブラック・ウィドウの蛇らいのレビュー・感想・評価

ブラック・ウィドウ(2021年製作の映画)
3.5
既出のMCUヒーローの中では断トツで好きなキャラクター。彼女があの時ヴォーミアで決断した理由が描かれるであろうと期待を膨らませた。さらに、彼女が何故、アベンジャーズを家族だと慕い、こだわりを見せるのかも本作では語られている。

監督のケイト・ショートランドは女性監督であり、過去作『ベルリン・シンドローム』などとも本作とリンクするテーマ性を描く。

お父さんとの再会は、遅れてきた女子の反抗期の様でとても微笑ましい。お父さんキモい、臭い的なリアクションが硬派なスパイコスチュームとも相まって、ケレン味溢れる演出だ。

描かれるのは徹底して自由意志と決定論、旧来の女性の地位からの解放である。ナターシャが囚われた育成スパイを解放した際に、普通なら一緒に戦いを望むところだが、できるだけ遠くに逃げて欲しいと望む。揺るぎない覚悟を感じるセリフに感動した。

自省すべき過去と、変えるべき未来の狭間に怯むことなく立っている。ナターシャが劇中で起こすアクションは、『はちどり』とも通底する。未来の誰かを救うことは、過去の自分を救うことであると自負している。目の前で苦しむのは紛れもなく過去の自分なのだ。

ドレイコフが女性たちを科学的洗脳で長年の間、服従に成功していたわけだが、唯一の失敗は擬似的でも家族という連帯性を持たせたことだ。例え兵器として扱われ、苦しい時間だったとしても、何物にも変え難い美しい瞬間が存在していた。その一瞬は爆発的な輝きを放ち、苦しかった時間さえ凌駕してしまうのではないかという希望が描かれている。

初めて自分の意思で選んだ妹のベストを着て、妹と一緒のブロンドヘアでIWに挑む。ヴォーミアでナターシャが決断したのは、本作で確信に変わった、この世は生きるに値する、守るに値するという信念だったのだ。妹が自らを犠牲にして自分を守った様に、血は繋がらずとも家族として接してくれた両親の様に、守るべき家族(アベンジャーズ)と人類をナターシャは守った。

今まで理解できていなかったナターシャの発言、行動原理を深く理解できた作品になった。自らで苦悩しながらも見出した生きる意味は、ヒーローの根源的な存在意義として掲げられた。ナターシャにとってのヒーローは自分だったという事実は、ヒーロームービーとして、新しくも真っ当なニュースタンダードなのではないか。
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