えくすぷろーじょん

燃ゆる女の肖像のえくすぷろーじょんのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.5
映像の美しさと、印象的な「間」によって物語を進めていく、正に芸術と呼ぶべき作品でした。
この作品、音楽に頼った物語の盛り上げは非常に限定的にしか行いません。しかし、それが逆に主役二人の感情の揺れ動きに注目できるような雰囲気を作り出しています。というのも、主役二人、非常に言葉の外での演技が上手い。わずかな表情の差異でこんなにも複雑な感情を表せるのか、と、夢中になって見ていました。数少ない劇中曲であり、モチーフとなる楽曲「四季」が、どのように使われているのかに是非注目して見て欲しいです。

作品の中では「怒り」が肯定されています。主人公がエロイーズに惹かれるのは、彼女の自分自身の境遇や言葉を濁す他者への怒りを感じ取ったからです。多くの人、歴史に埋もれ見向きもされなかった人達の心にも怒りがあり、それが他の感情や「生きよう」という決意に至るまでの着火剤になり得る、という物語でもあったのかなと思います。だから、「燃ゆる女の肖像画」なのかな、と。

二人のラブストーリーは決してハッピーエンドではありません。というか、この作品、出てくる人はほぼ苦しんでいます。(エロイーズの母は故郷から遠く離れ、イタリア語で喋っているときしか本音が出ない。女中はある秘密を抱えている)。それでも、怒りや悲しみに任せて、人生を投げ出すことは許されない。その中でどうにか生きていくしか無いのだ、しかしそれは怒りや感情を忘れることと同義では無いのだ、と強く感じました。

すばらしい映画を試写会で鑑賞させていただき、ありがとうございました。新型コロナの影響が無ければ、改めて映画館に足を運びたい所存です。