ボブおじさん

燃ゆる女の肖像のボブおじさんのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.1
18世紀、フランス、ブルターニュの孤島。
望まぬ結婚を控える貴族の娘と、彼女の肖像を描く女性画家。
結ばれるはずのない運命の下、一時の恋が永遠に燃え上がる。

チラシなどを見ればこの映画が、許されぬ恋に落ちた女性の悲哀を描く作品であることは容易に想像がつく。だが、決してそれだけの映画ではない。

今でも同性の恋愛には障壁が多いが、この時代はその比ではないだろう。また、絵画展に自分の作品を父親の名前で出展している事でもわかる通り、女性の立場は今よりも格段に弱い時代の話だ。

登場人物は貴族の母娘と女性画家、侍女のほぼ4人だけ。徹底的に男性の存在を排除して孤島に男の姿はない、それとも見えないだけなのか?

BGMもラストシーンまでほとんど無く、表面上は実に静かな映画である。

この映画の見どころは、ブルターニュの孤島の風景と屋敷の中を背景に撮影された絵画のように美しい映像だ。

その背景の前で画家、貴族の娘、侍女3人の若い女性の共同生活が進行する。

初めて孤島に降りだ時、岩場から見る薄紫色にグラデーションされた夕景。

画家が屋敷に到着し、ろうそくの灯りのみで侍女と二人階段を登る陰影。

暖炉の火を背景に全裸で身体を乾かしながらタバコを吸うシーン。

シンメトリーな格子窓から籠れる自然光をバックに、画家と侍女の間に映し出される鮮やかな緑のドレス。

どの場面を切り取っても、スクリーンというキャンバスに描かれた一枚の絵画のような美しさだ。

彼女の姉はなぜ自殺したのか?
前任の画家が肖像画を描けなかったのは何故か?
肖像画の顔が消されているのは何故か?

ろうそくや暖炉の炎から放たれる微かな灯りがミステリアスな雰囲気を醸し出す。

侍女にも秘密があり、その解決の為に二人も協力する。ベッドに横たわる侍女の隣にいる赤ん坊は、この島で初めて見る男の子。無垢な彼はまだ女性を蔑むことも虐げることも知らない。
赤ん坊が侍女の顔に手を乗せる場面は、神からの許しを受けるようにも見える。

屋敷の見張り役である母親が不在の5日間で、画家とモデルが、「見る、見られる」という関係から「見つめ合う」関係へと変わっていき、やがて恋に落ちる様子が静かだが情熱的に描かれる。

ラストシーンは、前振りとしてあったオルフェウスの神話から一定の解釈はできる。だが正解は一つではないかもしれない。
オルフェウスの神話をめぐり3人の意見が皆違っていたように。


劇場で鑑賞した映画を動画配信にて再視聴。



※基本的には美しい映像を堪能する為にも劇場での鑑賞がベストだが、今回動画配信で視聴中に映像を一時停止して、絵画として眺めるという邪道な見方を発見(^^)。