「家族を養うために必死で働く父親」の姿を徹底的に悲哀をもって描くのは、この映画を観て同じような境遇に身を置く人が「自分も頑張ろう」と思わないようにするためだろう。これは決して働く人たちに対するエールなどではないのだ。
宅配事業が抱える問題を描くのと同時に、「これは家族のためなんだ」と踏み出した一歩が大きな間違いであったと内心では分かりつつも、もう引き返せないところまで来てしまった父親の悲しさを描く作品でもある。
「Sorry We Missed You(配達時、ご不在でした)」を意味する原題がダブルミーニングだったと分かるラストが秀逸。
※以下は、2020年2月2日に天文館シネマパラダイスにて鑑賞したときの感想。
とにかく「ひとりの人間の中には“良い部分”と“問題のある部分”が同居している」という描写が巧み。単に二面性を打ち出す「性格に裏表がある」とか、人物の本質を提示しようとする「本当は“良い人”なんだよ」みたいな描写とは違った加減。
原題の『Sorry We Missed You』は、「配達時、ご不在でした」という不在票の提携文を意味するとのこと。作中でも不在票は象徴的な使われ方をしていた。あとなんとなく印象的だったのは病院のシーン。なぜかあそこだけモブの描写にかなり厚みを感じた。