アキラナウェイ

家族を想うときのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

家族を想うとき(2019年製作の映画)
4.4
Sorry I Missed You.
劇場で見逃して、ずっと観たかった作品。

「わたしは、ダニエル・ブレイク」を最後に引退すると言われていたケン・ローチ監督が引退を撤回してまで描きたかった、世の中の歪みと、その中で苦しむ家族の姿。

どこまで働けば幸せになれるんだろう。

劇中、ボロボロになっても働き続ける父の姿が今でも瞼に浮かぶ。堪らなかった。ケン・ローチはまたしても、世の中がおかしいって事を素晴らしい表現力で代弁してくれた。

作品をレビューする前に、知っておくべき事。

ゼロ時間契約(Zero Hour Contract)の増加が、 イギリスでは問題となっている。ゼロ時間契約とは、週あたりの労働時間が明記されない雇用契約であり、この10年間で低賃金の職種で急速に増え、イギリス労働市場において不安定労働と低賃金労働の温床となっている。

元建築労働者のリッキーは、ゼロ時間契約の配達ドライバーで、彼の妻アビーは訪問介護に従事している。

フランチャイズだの、
自営業だの、
働けば働く程儲かるだの、
うまい話に乗せられて、リッキーは配達用のバンを購入しなくてはいけなくなる。
そんなお金はない。
妻の車を売る。

家族が乗る、"負のジェットコースター"は緩やかに下り坂を降りていく様だ。

指定された配達時間に間に合う様、厳しく課せられるノルマ。トイレに行く暇もない。個人事業主扱いなので、保険もない。

父も母も仕事に追われ、擦れ違い、
息子と娘も含めて、家族の歯車が狂い出す。

もがけばもがく程、蜘蛛の巣が絡まって抜け出せない様な苦しみ。

穏やかなアビーが、感情を抑えられず、啖呵を切るシーンが印象的。

原題は"Sorry We Missed You"。
所謂、宅配業者の不在票の言葉。
原題のままでいいのに。

「家族を想うとき」?
いや、彼らはいつだって家族を想っているんだよ!!想うときとか想わないときがある訳じゃない。いつだって、想わないときはないんだよ!!一見雰囲気が良さそうな邦題をつけて仕事をこなした気分でいるなよ!!

働くって何だろう。
家族って何だろう。
働けど働けど、先が見えない暗いトンネルを進む様な毎日。

世の中の、働く全ての大人達へ。
全方位的におススメです。