松井の天井直撃ホームラン

朝が来るの松井の天井直撃ホームランのネタバレレビュー・内容・結末

朝が来る(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

☆☆☆☆(全体の2/3)
☆☆☆★★(ラスト30分の駆け足ぶりが実に勿体ない)


〜この監督さんの本質は、物語を構築するストーリー性の有る劇映画よりも、自分の感じるままに突き進む、この作品の様なドキュメンタリーにこそ向いているのではないかと思っている。〜

『玄牝』の自分のレビューより

本編にはドキュメンタリーを模した場面があり。やはりと言うか、寧ろ個人的には「これこそが、河瀬直美の真骨頂!」と言える場面でもあり。その辺りに注目して観て貰うと、更に興味深く観れると思っています。
(勝手に監督本人の性格は、かなりの意地悪なのでは?とも『玄牝』を観た頃から感じていた。その辺りは、ひかりの家族を描く描写でも最大限に発揮されている…とも言えるか💦)


原作読了済み。

約150ページに渡って繰り広げられる〝 子供が出来ない夫婦の物語 〟
しかし、以後200ページは〝 子供を育てられなかった 〟幼い母親の悲しい物語が延々と続く。
それまでの長い長い重く苦しい話が、ラスト数ページで一気に浄化され、思わず泣かされてしまった。

映像化にあたって、原作からの変更点が幾つかあり。主なところとして…

不妊治療…岡山→札幌

片倉家…栃木県→奈良県

ベビーパトンの閉鎖…浅見が母親の介護で→自身の重い病いで

栗原夫婦の住居…武蔵小杉→(都内?)湾岸地域

ひかりの転職先…広島で新聞配達から、元横浜で風俗に勤めていたコノミを探して横浜のラブホテル清掃員→横浜で新聞配達

細かいところを抜きにすると、この辺りの変更点にはそれほどの違和感がない。
特に、不妊治療を岡山から札幌へとした変更は。夫婦2人の気持ち、高額な医療費。更に飛行機の天候で決断する辺りは。永作・井浦の演技&演出の力で説得力を伴っていた。
(原作でも岡山には新幹線ではなく飛行機で移動していたが、、、)

またこの夫婦の住居を、多摩川のほとり武蔵小杉から。海が見える地域にした理由が、《広島のお母さんが居る海と繋がっている》とした感謝の想いの強さが現れているし。
〝子宝に恵まれなかった 〟過去を浅見に持たせ。やむなく閉鎖せざるを得なくなってしまった事の想いが、浅見の人間性の豊かさを表現させており。それらを過剰に説明せずに、顔の皺だけで表現する演技で、観客を一気に納得させてしまう浅田美代子の素晴らしさ。それを引き出す演出力は、活字では味わえない部分でもありました。


映画本編は、ファーストシーンからかなりゆったりと。深く静かに浸透するが如く進んで行く。

《愛に恵まれた心を潤す光の洪水》

《愛に見放されてしまった心の隙間を埋めて欲しいささやかな光》

自然との調和は、河瀬作品には欠かせないキーワードの一つでもあるだけに。映画本編の中で《らしさ全開》で、数多くの自然描写が多く。中でもタイトルの由来となる〝 ひかり 〟の描写には、原作には描写されないこれら多くの《幸福》を求める人間の〝 ひかり 〟への想いを、様々に表現させていた。

観客の心に染み込んで行く様なこのリズム感。ハマり込んで行けば行くほど、この河瀬直美ワールドの虜になるのは間違いない。

但し、、、

いわゆる、エンタメ系の作品とは一線を引く作品だけに。言わば説明過多とも言えるエンタメ系作品を観なれた人には。どうしても、もどかしい座りの悪い椅子に長い時間座り続けているかの様な感覚を覚えてしまうかも知れず、観る人を選ぶ作品とも言える。

ファーストシーン近く、初めて電話の呼び出し音が画面に被るが家族は部屋を出ている。しかしカメラはゆっくりと廊下を前進する。
おそらく妻の心の不安感を表現したい…との思いからだと思うものの。少し意地悪く言ってしまうと、「B級ホラーか?」と思ってしまった。
以後映画は暫く、手持ちカメラで画面のブレる映像が続くのが少し気になった。

原作のある映画作品としては原作を補正しつつ、かなりの成功を収めていると言えるのですが。ただ一つだけ残念だったのが。最後の最後、ひかりが広島に戻るとこらからラストまでの駆け足があまりにも早すぎてしまい。そこまでのリズム感の良さが一気に損なわれてしまった気がする。
それと、これは原作・映画共に言えるのですが。ラスト数ページでの秀逸な描写を生かす為にも、刑事が訪問する場面は要らなかったと思っているのですが、、、

ひかりは(確か)何処に居るのか分からない我が子に向けて手紙を書いていたのでは?
こちらの勝手にラストの流れを
「ごめんなさい!」と言って出て行く→これまで書き続けた手紙を郵便受けに入れる(又は、原作にもある「筆跡を調べて欲しい」)→読む(重要な一文に気付く)で、ラストの流れは完璧になるとは思っているのですが(´-`)


浅田美代子の演技が素晴らしかったのは既に書きましたが。(そもそも彼女の演技の素晴らしさは、『赤い鯨と白い蛇』の頃から際立っていたが)それ以外でも、永作・井浦の夫婦コンビ(原作だと夫役が目立たないだけに)や、子役の男の子。その他の出演者の演技には説得力があり。やはり蒔田彩珠ちゃんの熱演あってこそ…は記しておかずにはいられない。
山下リオは、近年カメレオン女優化して来ており。今後とも目が離せない存在になりつつある。

どうでも良い場面なのですが、個人的にツボった場面が一つ。

実家に帰ったひかりが、姉の部屋に入り「子供っぽい!」と一言呟く。
その時に数曲クラシックを中心としたピアノの調べがメドレーで聴こえて来るのですが。その中で、ほんの一瞬だけ♬ 虹を追いかけて♬のメロディーに変化していた。


2020年10月31日 TOHOシネマズ市川コルトンプラザ/スクリーン2