ShinMakita

カセットテープ・ダイアリーズのShinMakitaのレビュー・感想・評価

3.1

1987年、ロンドン郊外の町ルートン。パキスタン移民の少年ジャベドは、詩を書くのが好きな少年。高校に進学したものの、気持ちは憂鬱だ。パキスタン人らしく振る舞うことを強要する家族第一主義の父親に逆らえず、友達も彼女もできない日々。モノを書くのが好きだけど、そんなものは金持ち白人の道楽だと父は認めてはくれない。近所に排斥主義者も多く、差別に遭うこともしょっちゅうだ。世の中は不景気だし、夢も希望もない…だが、偶然話すようになったクラスメイトから借りた「ボス」の曲がウォークマンのヘッドホンから耳に流れてきた瞬間、何かが変わった。その歌詞の世界は、彼の詩の世界と現実世界を見事に写し出していたのだ。以来、ジャベドは「ボス」にのめり込むようになっていく…


「カセットテープ・ダイアリーズ」

以下、ネタバレのサンダーロード


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偶然ラジオで聴いた「リバー」という曲。貧しい労働者と結婚した妹に捧げた哀歌なんだけど、その物悲しい旋律と渋い声に惹かれて歌詞を読んだら思わず泣いてしまった…これが俺、くたびれた中年男とザ・ボスことブルース・スプリングスティーンとの出会いです。いや、ブルースさんの名は昔から知ってはいました。映画ファンとしてトム・ハンクスの「フィラデルフィア」の主題曲が彼のものなのは知っているし、ショーン・ペン兄貴が自作でブルースの楽曲をモチーフにしていることも常識です。でも映画と切り離して、そのメロディと歌詞世界に触れたのは最近のことでした。

ふつう、ブルース・スプリングスティーンは、挫折を味わい先が暗い人生を送った人間に刺さる世界なんですよ。それが思春期の少年に刺さったという設定がまず面白い。確かに刺さって然るべき状況なんですよ、ジャベドくん。さらに、音楽映画なのにメロディや演奏に言及せず、歌詞の世界に特化したストーリーというのも異色。ダンスシーンもちょっとはあるけど、基本、主人公を虜にするのは歌詞なんです。詩のチカラ、言葉のチカラを讃えた映画でもあるんですよね。父との対立と和解のプロセスや着地はベタではあるけれど、感動的。「はちどり」とはまた違う王道の思春期映画として良作と評価します。

ま、ワムやらa-haやらの時代に既に懐メロと化していたブルース・スプリングスティーンが好きかどうかでも評価は変わりますけどね。俺的にはたらふくボスの曲が聴けるだけで100億点の逸品です。
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