ms

カセットテープ・ダイアリーズのmsのレビュー・感想・評価

4.7
初めてミュージシャンに夢中になった10代の頃をみずみずしく思い出した。世界はその人を中心に回っていて、その人の書く歌詞と掻き鳴らすギターサウンドの中にこの世の全ての真理があると信じて疑わなかったあの頃。これ以外の音楽は邪道であると身勝手に思い込んでいたあの頃。

でも劇中でジャベドは、感情を乗せまくったあまり神格化してしまったブルース・スプリングスティーンを乗り越えていく。それが良かった。作家になりたいと夢見る彼のラストの朗読・独白が素晴らしい。「音楽ってやっぱいいよね〜!」みたいなありがちな結末にならない幕の引き方がかっこよかった。

家族の絆とは祝福であると同時に呪いでもある。自分の進みたい道を目指すことが家族を棄てることとイコールになってしまうのではないか、という葛藤。人並みに家族愛も地元愛もあるゆえに、それらを切り捨てて自分の夢を追いかける覚悟がない自分は、ただ甘いだけなのか。この町で生きて死んでいくのが自分の人生なのか。ポンコツの車で逃げ出すことすらできないジャベドにすごく共感した。家族がいるから頑張れることもあれば、それが足枷になってできないこともある。あの小さな田舎町でムスリムであり移民であるジャベドにとっては、それがさらに重い重い問題だったんだろうなと思う。

ノリのいい音楽映画である以上に、骨太なヒューマンドラマだった。後半はずっと半泣き状態。父権制度をふりかざす親父だって、かつてパキスタンを出て渡英するくらいだから、もともとそういうハングリーさを持ってたんだな。

主演俳優の精悍で誠実な顔つきも最高だし、80sのファッションもやっぱり最高。デニムonデニムって憧れちゃうよね・・・。
ms

ms