ノラネコの呑んで観るシネマ

パヴァロッティ 太陽のテノールのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

4.3
彼の歌声を聴いた者は、誰でも恋してしまう。
世界一感情を揺さぶる声の持ち主、ルチアーノ・パヴァロッティの生涯。
戦時下のイタリアで少年時代を過し、教会で歌っていた父と、息子の才能を信じる母に背中を押され、やがて世界的テノールへと成長してゆく。
ロン・ハワードは、パヴァロッティの人生を一つの年代記としてじっくりと描く。
人気が高まり、オペラ歌手の枠を超え世界のスーパースターとなると、社会への還元を考え始め、チャリティ活動へ傾倒。
その原点となるのは、幼少期の戦争の記憶。
私生活でも最初の妻、娘たち、愛人、最後の妻が赤裸々に人間パヴァロッティを語る。
裏切られた形の最初の妻や娘たちも含めて、根底の部分でパヴァロッティに魅了されていることを隠さない。
それは彼が基本的に陽性で、善意の人だったからだろう。
心を打つのは、人生の最後でのオペラへの回帰。
年老いてもう全盛期の声は出ない。
それでも長い道程の紆余曲折を乗り越えて、初めて可能な表現が確かにある。
パヴァロッティが到達した芸術の真髄と歌手の矜恃を、チャリティ仲間のボノが熱く語る。
それにしても、本当に聴き惚れてしまう歌声だな。
彼のアリアはいつまででも聴いていたくなる。
「あの声に恋しない人なんていないでしょ?」という最初の妻の言葉に納得。