ギヨーム・ブラック特集で一番観たかったのがこの『宝島』なんですが、いや面白かった。期待通りの出来で満足でした。
しかし期待通りとは言ったものの実は映画の内容は想像していたのとは全く違っていて、それも思ってたよりもシリアスだったなとかコメディだったなとかそういうレベルではなく劇映画かと思ってたらドキュメンタリー映画だったという、いやそれくらいは事前にチェックしとけよ! お前この映画観たかったんだろ? とセルフツッコミしてしまうほどの適当さに我ながら呆れてしまう。まぁ観ようと思ってる映画でも普段から予告編すら見ずに劇場へ行くタチなので思てたんと違うパターンはよくあるのだが劇映画かドキュメンタリー映画かも定かではなかったのは久しぶりかもしれない。
でも最初に書いたように映画自体は面白かった。ドキュメンタリー映画ではあるがそんなシリアスな社会問題を扱った作品というわけでもなくてゆるゆるドキュメンタリーだったのがうれしい誤算という感じでしたね。そこは昨年か一昨年くらいに観た同監督の『みんなのヴァカンス』に近い雰囲気だったのですんなりと作品世界に入れたって感じですね。
映画の内容はパリ郊外にあるレジャー・アイランドでのひと夏を描いたものです。セルジー=ポントアーズにあるそのレジャー施設は湖に手を加えたようなものらしく、ウォーターパークと遊園地を合わせたようなワクワクな場所らしい。そこは地元のパリっ子が週末に訪れることもあれば遠くからの旅行者も来ているであろう感じだが、ともかく日常の喧騒からは離れた遊びや休息や避暑や現実逃避などといった要素を全部どんとこいといったように受け入れてくれるヴァカンスの場なのである。その園内にカメラが入って様々な姿をスケッチしていくというドキュメンタリー映画ですね。
なのでぶっちゃけると『みんなのヴァカンス』のドキュメンタリーバージョンで、あの映画の感想文をそのままここにコピペしても大して違和感はないのではないかとさえ思ってしまうのだが、流石にそれはあんまりなので一応本作での面白かったポイントを書いていこう。
まず映画の冒頭から面白かったがそこで描かれたものっていうのが、多分地元の悪ガキ共(11~12歳くらいのガキだったかな)が子供だけじゃダメで保護者同伴じゃなきゃ入園できないって散々言われてんのに諦めなくて、水路から園内に侵入したり柵を登って侵入したりと不法入園を試みるのだが、当然園内には監視カメラがあるので見つかって警備員怒られる姿から映画が始まるのである。これは映画始まって5分後くらいのシーンだが、もうこの時点でおもしれー! となるわけだ。これは個人的にも思い当たる節があるが、金払わずに何とか入れないか、とか考えて実行しちゃうバカってのはどこにでもいるんですよね。んでその姿が全然カメラを意識していないように自然に撮られている。もうこの出だしでガッツリ心は掴まれてしまいましたね。あれ多分監督は園の方から怒られたんじゃないかな。一応違法行為に加担しているような形になってるし…。でも客としては面白いからヨシ! です。
あとは本当にただ仲良く遊んでるだけの親子とか、テンション上がりすぎて遊泳禁止の川に飛び込むおっさん共とか、飲み物飲みながら川辺の芝生の上でごろりと日向ぼっこをしている女友達同士とか、そういう屈託がなくて楽園じみた風景が次々と描かれていくのである。そりゃもう幸せな映画だよな。本作の舞台のような大きなレジャー施設ではなかったけど、自分がガキの頃に家族で近所の市民プールに行った時のこととか思い出しながら観てたよ。
ただそういうゆるゆるドキュメンタリーなのは中盤までで後半はインタビューを受けた客のハードな人生模様とかがヴァカンス地のコントラストと共に浮かび上がってきたりもするし、これは序盤から伏線のように描かれていたが園側の運営の姿とそこにある苦労も描かれたりもする。例えば傍目には楽し気な家族一行にしか見えない人たちが実はインタビューしてみると紛争地から逃れてきた移民だったりする。そして運営側のシビアな人件費節約の方策とか、売店でバイトしてる兄ちゃん姉ちゃんが、他のとこでバイトした方が稼げるかなーとか楽園とはかけ離れた現実味のある会話を交わしたりもするのだ。冒頭でも描かれた園側の規則とそれをすり抜けようとするガキ共のイタチごっこも楽しさはありつつ、ガキが「あいつレイシストだから僕らを入園させない(違う)」と愚痴ったりするシーンもいいタイミングで挿入されたりするのである。まぁそこはガキが金払ってないだけなんだけど、楽園の風景の隙間からいつの間にか社会が透けて見えるのが凄い面白かったですね。
あとはそうだな、かつてパリの郊外を描いた印象派の画家たちのような目で捉えられる水辺の風景は最高。特に水辺の風景が多い映画だけど、その水辺にある緑と水面を輝かせる光の感じは本当に現代っぽい印象派風景という感じでしたね。コローとかモネとかカミーユ・ピサロとかスーラのようなかつて同じような風景を描いた画家たちが本作を観たら何て言っただろうなぁとか想像しちゃいますね。
個人的には20代前半くらいのボンクラそうなバイトの兄ちゃんたちが客をナンパしまくるパートとか最高でしたね。そういやレジャーバイトで働きながらナンパしてる友達いたわ。バイト代もらいながらナンパできるとかそりゃ楽園だよな。あとは中盤辺りから出てきてラストを飾った兄弟の眩しさが凄かったですね。あの二人の姿はちょっと泣きそうになった。
ま、色んな見どころがあるけど基本はゆるゆるでほのぼのなドキュメンタリーなのでお酒でも飲みながらゆっくり観るのがいいんじゃないでしょうか。時期的には正に今の夏真っ盛りに観るのがいいでしょうね。
うん、これは良いものを観たな。面白かった。