しゅんまつもと

架空OL日記のしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

架空OL日記(2020年製作の映画)
4.9
映画とはなんなのか、と終わらない問いを繰り返す。それは秀逸な脚本によるものなのか、巧みな撮影・編集によるものなのか、役者による演技なのか。きっとその全部が不可分な関係で映画は出来上がって、見る人それぞれの物差しでもって価値が決まるのだろう。

ではこの『架空OL日記』は映画なのか。テレビに映るドラマと何が違うのか。その答えはたったひとつ。そんなものは愚問だ。ということ。エンドロールが流れるなかで自分が思ったのはそれだけだった。

人は誰かを想うことでしか生きていけないような気がする。それは誰かに向ける好意はもちろん、鬱憤をぶちまける陰口だってそうだろう。あらゆる形で誰かと繋がらなきゃこの社会に属せないんだもの。
生きてることに整合性なんてない。綺麗な伏線回収なんてない。おもしろおかしい物語の起伏だってきっとない。そんななんてことない日々を紡ぐことが如何に幸せなことか。それでも終盤に起きるささやかな「なんてことのなくないこと」を見ながら思わず涙が出てしまったよ。

本来自分とは関係のない人を描いて、自分との繋がりを作ることはきっと映画のひとつの強みだろう。だとすればこの映画は立派な映画なのだ。でもそんなことはもうどうでもいい。
理不尽なことなんていくらでも起きる世の中でこうして何気ない日々をサバイブしている人たちが無数にいる。自分だってそう。月曜日が少しでも明るくなるように。