biboo

草間彌生∞INFINITYのbibooのネタバレレビュー・内容・結末

草間彌生∞INFINITY(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

男装女卑が蔓延し、人種差別も当たり前の戦後すぐの時代に渡米し、今では最も売れている女性画家になった草間彌生。業界だけじゃなくて世の中全体が圧倒的に男性社会だった時代にどのように画家として表現していったかを彼女のデビュー当時から振り返ったドキュメンタリー。

外国で生きることの苦悩はもちろんのこと、人種的にも性別的にも権利が小さい気鋭の日本人女性画家という立場でどう戦ってきたかというのが描かれていて、ものすごく勇気がもらえた。アンディーウォーホルにアイデアを盗まれても今のようにSNSもないから知名度の差で簡単にないがしろにされ、日本人画家特集の展覧会をNYで開催すれば、6人の出展者中、草間さんは紅一点で、展示数も設置の仕方もバラバラ不平等にされたり、今だったら問題になっているだろうにと思うことが満載だった。そんな環境で何度も死にたいと思ったけど、何度も思い直しては立ち上がるを繰り返し、がむしゃらにしがみついては、認めてもらうために何でもやる彼女の姿にはかなり勇気をもらえるしモチベーションが上がる。今では到底できそうもないハプニングとかをゲリラでやってたりするんだけど、いろんな批判や声を浴びながらも、自分の奥底にあるものを一貫して表現し続けていて、とにかく惑わされていなかった。そうやって粘り強く続けていたことで、誰かが見つけてくれて、その見つけてくれた人たちが逆に「彼女をみんなに認めてもらわなきゃ」と奮い立っていた。インタビューに答えていた人たちがみんな彼女の芸術に惚れ込んでいるだけではなくて、「自分が協力しなきゃ」というような気概を感じられたのが草間さんの人望を感じて素敵だった。

今以上に結婚とか性別の役割に関する固定化された刷り込みが強い中でも、別に必要ないことはしないし、思考の方向がいつも誰よりもまともで、2022年の今聞いても共感できる感性ばかりで素敵だった。

「アメリカから帰ってきて日本は100年くらい遅れてると思いました。ジャーナリストがスキャンダルばかり追い回して、みんな頭が古くて」という草間さんの言葉から、いまだに何にも変わっていない日本が辛くもなった。でも別に母国をないがしろにしてたり斜めに見てるわけじゃなくて、展覧会の初日とか大事な場では毎回着物を着ていたり常に日本人であるという意識がちゃんとあって、自分のアイデンティと向き合った上で地に足着いてる感じがとても勉強になった。どれだけ世界中で売れても、自分の故郷で認められたのはその後というのが皮肉だなと思ったが、それでも腐らずやり続けるというのがどういうことなのかを体感的に教えてもらえるドキュメンタリー。

だた、わがままを言えば、英語の部分だけじゃなくて日本語の部分にも字幕が欲しいと思った。
biboo

biboo