Jun潤

犬王のJun潤のレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
3.5
2022.05.31

野木亜紀子脚本作品。
タイトルだけではどんな作品か想像がつきませんでしたが、予告を見ると平安時代の能楽を題材としている、こりゃまた斬新な題材でしたし、粒揃いな今年の劇場アニメ作品は見逃すわけにいかないということで今回鑑賞です。

監督は独特な作画と演出で独自の世界観を創り上げる湯浅政明。
主演は女王蜂のボーカル・アヴちゃん×森山未來。
原作は古川日出男著作『平家物語 犬王の巻』。

南北朝時代から室町時代に実在し、観阿弥・世阿弥と人気を二分した実在の能楽師・犬王。
猿楽の一座に生まれながら、異形の姿から瓢箪の面を被っていた犬王は、盲目の琵琶法師・友魚との出会い、共に人気を獲得していく。
しかし歴史の奔流は彼らの存在を後世に残すことはなかった。

能のアニメーションに乗せて掻き鳴らされるロックサウンド!
これこそが今作を唯一無二の異作に押し上げる最強の違和感!!

物語としては移ろいゆく時代の中で、人々を歓喜させ感動させていた能文化の世界を舞台に、2人の男が、お互いに欠けている、失ってしまったものを埋め合い、補い合い、突出した才能を掛け合わせて成り上がっていく友情×歴史ロマン×ロック!
そんなこの組み合わせを考えた人の脳内がバグってるレベルでジャンルのるつぼなもの。

実際、戦国時代のように分かりやすい合戦がなかったり、人物の相関が分かり辛かったり、学生時代の頃から中世を苦手としている僕のような人からすると、話にのめり込める具合で言ったら、そこまで高くないのでは?と邪推してしまう塩梅…。

しかしそれを補って余りある、ライブシーンの出来栄え。
実際現代のようなライブではなく、犬王が能を舞い、友魚は琵琶を奏でる。
当時のポップスターと謳われた犬王らを現代のアニメーションの中に蘇らせ、新たなロックサウンドを生み出す。

あとはやはり演技ですね。
森山未來の演技の幅は計り知れないものがあります。
既に邦画俳優として実力派の一人として立場を確立したのかと思いきや、さすが人間の可能性は計り知れないもので、まだまだ表現力を磨いてくる。
『聖☆おにいさん』以来およそ9年ぶりのアニメ出演で、友魚の未熟な少年の様から琵琶法師として大成し、犬王との悲劇的な別れまでを見事に演じていました。

また女王蜂のアヴちゃん。
バンドの存在は知っていましたが曲は一曲聞いたことがあるかないかくらいで、キャスティングを知った時にはこりゃまたパンチのある方を…と思いましたが、まさかまさかの右ストレート。
圧倒的な歌唱力もさることながら、歌唱シーン以外の犬王の感情を表現する演技でも、全く違和感のない、それどころか違和感強めな非声優の演技よりも明らかにマッチしていました。

時を超え、歴史の闇すら振り払って人々の心を打つ文化的才能。
人間が持つ可能性というのを、キャスト陣の演技やジャンルを超えた出会いという意味でも、強く感じる一作。
Jun潤

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