ちろる

生きるのちろるのレビュー・感想・評価

生きる(1952年製作の映画)
4.5
まだ自分には早いのかと思い、ずっと前から見ようとして、また躊躇して。
やっぱ観たくて・・・と繰り返して。
大好きな父も一昨年胃がんで亡くなって、尊敬してた祖母も亡くなって、私の周りに死が続いてしまったからやっぱりこの作品観ようと思った。

死んだように生きることよりは、例え短くても人々の心に残るような生き方をして死にたい。
これは誰もが考えることだと思う。
この物語の主人公渡邉の存在はステレオタイプの日本人そのものである。
いや、あの、その・・・と言いたいことを上手く伝えられず、事なかれ主義で、目立つことを嫌う。
私たち観客は、この渡邉の姿に苛立ちながらも、彼のどこかに自分を見つけて居心地が悪くなったり、他人事と思えなくなるシーンも出てくる。
なによりもこの渡邉を演じた志村喬さんの悲しくなるほどの哀愁漂う表情の演技の凄さ!
この存在感と切ない背中の演技がもうこの作品を忘れられない存在にさせる一番の要因であると思う。

家に帰らず一人、寒く冷え込んだ空気の中で酒を飲み、心地よく歌を歌う渡邉はどんな微笑みを浮かべていたのだろうか。
とんでもなく感動作と見せかけてそうはいかないシニカルな展開も良い。
あれはまさしく日本人そのものを体現しているし、日本の恥の部分をあえてラストに印象付けて、クロサワはこれでいいのかと未来につなげて私たちに問いかけている。
しかしもう、70年近く前の作品になるというのに、変わらない日本に私はのほほんと生きといる。
多分私はこの渡邉のようにはなれないのではと心のどこかで思うから、私もあのダメな
お役所の人たちを批判することはできない。
そしてそれがとても恥ずかしい.。
この作品を、単に生死を考えさせられる名作としてではなく、傷口に塗る塩のような存在としても認識しなければいけないのかもしれない。
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