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キングメーカー 大統領を作った男のsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
1961年。韓国東北部の江原道で小さな薬局を営むソ・チャンデは、世の中を変えたいという思いから野党の新民党に所属するキム・ウンボムに肩入れし、ウンボムの選挙事務所を訪ねて新たな選挙戦略を提案する。その結果、ウンボムは補欠選挙で初当選を果たす。国会議員選挙では地元で対立候補を破り、新進気鋭の議員として注目を集めるようになる。その後もチャンデは影の参謀として活躍するが、勝利のためには手段を選ばないチャンデに、理想家肌のウンボムは次第に理念の違いを感じるようになり……。
名優ソル・ギョングと『パラサイト 半地下の家族』のイ・ソンギュンが共演し、第58回百想芸術大賞で最優秀男性演技賞、監督賞、男性助演賞の3冠受賞を果たした話題作。

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めちゃ面白かった!
ポリティカル・サスペンスだけど、鮮やかな奸計がコミカルでダークな立身出世モノとしても楽しめた。何より事実を下敷きにした説得力。嘘みたいな選挙対策が実際にあったことだったり、韓国内で今なお続く地域間対立の正体まで見えてきちゃう。
「1986」「国家が破産する日」「KCIA」etc…近年の韓国社会派映画の傑作群に連なる傑作。黒歴史もちゃんと映画にしてエンタメに昇華しちゃう、韓国映画界の懐の深さたるや。

ソル・ギョングが演じたキム・ウンボム候補と、イ・ソンギョン演じた参謀ソ・チェンデ。2人のモデルは金大中と、60年代はじめから約10年にわたって選挙ブレーンを務めた厳昌録(オム・チャンノク)なる人物だという。

政敵をやっつけるような爽快さを捨てて、二人の男の絆の物語に着地するのもクレバー。現実問題として政治に振り回された当時を知る国民からすれば「美談にしてんじゃねえっつーの」て気分かもしれないが。


パンチラインっていうか、グサリと胸刺すセリフが随所に多い。冒頭の「一番腹が立つのは 信頼を裏切ること」は映画全体の暗示だし、当時も今も建前と本音を使い分ける政治の汚い部分への揶揄でもある。他に「我々は商売人じゃない。商売は金稼ぎが目的だが、政治は票稼ぎを目的にしてはならない」とは勝ち負けばかりに注目しがちな人達の横っ面をはたくよう。あと「正義は勝った方が決める」ってのもあって、納得するけどなんだか悔しい。


綺麗事ばかりじゃ勝てない選挙戦の暗部に深く切り込む内容で、映像表現でも陰と陽、光と影の使い分けが印象的。基本的にチャンデとウンボム候補が直接会話するのは夜か室内の暗いシーンが多い。常に影として暗躍するチャンデに対して、光と影を行ったり来たりするウンボムの描き分けが面白かった。そういやポスターからして陰陽分かれた二人の姿だ。
やっと二人が明るい場所で向かい合うシーンの多幸感とようやく辿り着いた感の一方で、欺瞞に満ちた世界への諦観にも見える。浮世を離れて、やっとこ心落ち着く場所が見つかるのは良いことなのか、悪いことなのか。

60年末が舞台の濃密な人間ドラマ作品だけど、顔面ドアップで心情を熱々と描写するようなシーンが一度もない。画面がスタイリッシュで空間の抜けがいいシーンを多用して(ワイドショットや広間)、見ていて息苦しくならない映像センスがすげえ。光の存在ウンボムに対して、影のチョンデの陰影描き分け、日の当たるところに出たいチョンデの鬱屈を光と影で描く鮮やかさ。

エドガー・ライトをオマージュしてると思われる序盤の宴席シーン(細かいカット割で宴卓とウイスキーロックが用意される一連のトコ)とか、現代的なリズム感覚で作られてるのがよく分かる。


ソル・ギョングは「1987」のこだまなのか再び金大中大統領をモデルにしたキャラクター。誠実で公明正大であろうとするあまりに、理想家の側面が強調されてる印象。理想に燃える姿で周囲を巻き込む魅力的な人物だけど、正邪の判断がハッキリしてるチョンデの汚れ仕事を認めない。

一方のソ・チョンデを演じたイ・ソンギョンといえば「パラサイト」のリッチパパパ役が記憶に新しい。隠しきれない細マッチョな体躯と清濁合わせ飲んだ大人の色気が香りたつ。怪しく人を惹きつける魅力と、奸計に長けた頭脳の組み合わせ。世の中を変えるべく理想に燃えてたハズなのに、気づけば大衆をバカ扱いしてるのが分かる。最初からなのか、汚れ仕事を続けたせいなのか?

ギョングが言う決定的に二人が決裂するセリフが正論だけど強烈で、チョンデの愛しさ転じて憎さ100倍、闇堕ちもやむない感じ。最初っから闇の所業ばかりだけったけど、いよいよズッポリ闇にのまれてしまうので、ちょっと可哀想。
そもそもこの二人の描かれ方にBL味あって、視点を変えると「愛する人のために、あらゆる汚れ仕事をしてたら『汚いから寄るな』って嫌われたので復讐する」話になる。3幕目以降の展開を分かってて見ると、序中盤の二人のイチャイチャや、ギョングに心酔するチョンデの眼差しが、完全に恋する人のソレで味わい深い。

自分用メモ)
実際の厳昌録は86年に56歳で逝去していて、87年の民主化宣言には間に合わず。ラストシーンが民主化後の88年ソウルオリンピックってことは…。死後も「選挙の鬼才」としてKCIA幹部や野党重鎮の間に神話のように語り継がれているという。
一方の金大中は、その後軍事政権下での拉致事件や光州事件の首謀者と断定されて死刑判決〜亡命など経て98年に大統領就任。太陽政策を推し進め、在任中にノーベル平和賞を受賞するが、息子たちの金銭スキャンダルが発覚。2003年の任期満了をもって政界を引退した。

57本目
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