いち麦

ソウルフル・ワールドのいち麦のネタバレレビュー・内容・結末

ソウルフル・ワールド(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ジャズ・ミュージシャンを夢見る、しがない公立中学の音楽教師ジョー・ガードナー。生死の狭間にある不思議な世界で、いつまでも現世の身体へと出生したがらないでいる“魂”との体験を通して、生きることの素朴で純粋な素晴らしさを知る。人は夢や目標に向かってだけ生きるのではない、というテーマが強く心に突き刺さる。世の中、自分の夢を実現できる人間はそう多くない。決まって夢を成就した者が説く「夢を諦めないこと」とは全く別の、もっと大切な生き方を明示しているのだと心の底から共感した。主流となる“魂”22番に欠けた、一人ひとりの“きらめき(spark)”探しの物語に、違う人生に喜びを見いだせた床屋のEpや、父の苦い思い出に捉われ過ぎていた母親の背景を認めたEpなどを挟んだ説得力ある展開が素晴らしい。さり気なくアフリカ系アメリカ人たちが織りなす家族ぐるみの付き合い文化を垣間見せる描写も良い味わい。
流石は名作「インサイド・ヘッド」のピート・ドクター監督。チームを信頼し多くのアフリカ系アメリカ人たちに話を聞いて作り上げているからこそ、こんな直球テーマを自然で説得力のある表現で見せることができるのだろう。ジョーのキャラクター設定作りにも関わり、実際にキーボードを弾きながら演じていたというJ.フォックスの伸び伸びした声当ても凄くイイ。J.バティステによる繊細で美しいジャズ楽曲、それに合わせた運指を見せる見事な楽器演奏アニメーション(ジョーの指は、J.バティステの長い指そのものと言ってもよい)、生き生きとした質感を持つリンボー・キャラクターたちや、その2次元と3次元の使い分け等、つくづく音楽と映像の質の高さも実感した。大人向けアニメーションの秀作。(BD鑑賞時の感想)

(追記).
吹替版だけれど、ついに劇場上映され大スクリーンで鑑賞できて嬉しい。主人公ジョー・ガードナーは浜野謙太が声当て。死にゆく者と生まれ出る者が去来するという世界の設定はきっと宮崎駿「君たちはどう生きるか」にも影響を与えていると思った。
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