SANKOU

アルプススタンドのはしの方のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

高校球児たちが熱戦を繰り広げている中、アルプススタンドのはしの方でも密かなドラマが進行している。台詞回しの面白さと、何気ない会話の積み重ねが次第に大きな感動へと繋がっていくシナリオは見事。
アルプス側にだけカメラが向けられていて、試合の様子は一度も映らない地味な画面ばかり続くのに、ひとつも飽きさせないのは凄いと思った。
野球のルールを全く知らない演劇部の安田と田宮、元野球部なのに説明が物凄く下手くそな藤野、一人孤独に試合の行方を見つめる優等生の宮下。
スポットライトを浴びる選手たちをどこか冷めた目で見つめている四人。英語教師の厚木が暑苦しく声を張り上げ、皆で一致団結して野球部を応援するよう四人にも強要する。
青春ってなんだろうか。スポーツも勉強も恋も充実している、それが青春の輝きだろうか。
「しょうがない」が口癖の安田は、演劇部の部長で大会を目指していたが、部員がインフルエンザにかかってしまったことで出場を断念せざるを得なかった。
そしてインフルエンザにかかってしまったのは田宮で、その事で安田にずっと負い目を感じている。
藤野は野球部のピッチャーだったが、同じくピッチャーでけた違いの実力を持った園田には決して叶わないと思い、試合に出られないならと野球部を辞めた。彼は野球が下手くそで、試合にも出られないのに人一倍練習に熱心な矢野を軽蔑している。
「俺の方が正しいよな」と彼は自らに言い聞かせるように安田に尋ねる。
宮下は野球部の園田に密かに想いを寄せているが、友達を作るのが苦手でその想いを形にすることが出来ないでいる。
彼女はみんなで力を合わせてひとつのことを成し遂げることの素晴らしさを説く厚木に対して、一人でいることは駄目なのかと疑問を口にする。
甲子園の舞台に立って脚光を浴びながらプレイする、それは確かに青春ど真ん中という感じかもしれないが、それだけが青春ではない。
どんな形であれ、好きなことにとことん熱中できる、もしくは誰かのために本気で応援する、その中に青春の輝きはあるのだと思う。
試合には出られないかもしれないが、野球が好きだから一生懸命やれる矢野は、画面には映らないが誰よりも輝いていたと思う。
ただ藤野の気持ちも良く分かる。自分が表舞台で活躍出来ないと知ってしまった時の空しさはとても理解出来る。
安田にしても藤野にしても、最初からすべてを諦めているような人間ではない。一番悪いのは一生懸命やることは格好悪いことだと斜に構えて、無気力にすべてを見下しているような人間だ。
彼らは試合が進んでいくうちに、野球でいうところの送りバントの大切さに気づいていく。
自分たちも夢を追いかける人間だった。自分たちと同じように選手たちも夢を勝ち取るために必死で頑張っている。
最後には皆で声を張り上げて選手を応援する彼らの姿がまぶしかった。
最初は自分の価値観を強要する厚木という人間が目障りに感じたが、出てくる度に声がどんどん枯れていき、それでも選手のために全力で応援する彼の姿に心を打たれた。
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