骨折り損

アルプススタンドのはしの方の骨折り損のレビュー・感想・評価

3.6
俺にドストライクな題材なんですが。
が、俺の映画だ!とは言い切れない。

映画の大枠自体は期待していた通りちゃんと面白かった。だからもちろん好きな方だけど、この作品のファンかと言われたらそうではない。それは結局台詞やキャラクターの動かし方に現れる細部の演出があまり好きじゃなかったからだ。

こういうワンシチュエーションの日常系作品って、リアリティが最重要事項になりがち。だけどこの映画の登場人物たちは常に観客をチラチラと見ながら喋っているように見えた。俺らのこういう会話クスッと笑えるやろ?ってこっちを見られているようで。エレベーターに乗り合わせた女性を意識して大学生がつまらん漫才みたいな会話して気引こうとしてるみたいな。

こういうのエモいやんな?って言われているような「イケてないやつのあざとさ」みたいなのを終始感じてしまった。

あと記号的なキャラクターも冷めてしまった。吹奏楽部の嫌味な取り巻き二人も、台詞の割り振りがどっちが言っても変わらない台詞を交互に発する。台本に取り巻きA、取り巻きBとか書いてあるのかなと想像してしまって人間的じゃなかった。こういう共感系の映画はそういうディテールの個性を好きになって楽しむものだがそこがこの映画は好きになれなかった。

もう一つ、これ地味にめっちゃ大事なこととして、野球の試合見せてくれ。
『桐島〜』は桐島という人そのものには観客の感情が付随せず周りの人がドラマを動かす構成だから出てこない演出も映えた。でも、この映画は野球シーンを出さない事によるメリットがない。お金ないんだろうなしか思えない。野球を見せない事で、大事な主要キャラたちの掛け合いの最中に試合説明台詞が入るから感情がぶつ切りになって見にくい。せっかく演劇部とガリ勉の子がいい感じで分かり合えた瞬間を楽しもうと思っても、「ああーまたボールだ!フォアボールになったらやばいよ!」と説明が挟まれるのはもったいない。

題材と物語の大枠は好きだからこそ、感想が悪いことばかりになってしまったのは、それだけ、この最高のレストランでもっとうまいもん食いたかった!!っていう気持ちです。正直、大喜利が弱いと思った。ラストも、なんだか綺麗事みたいでモヤッとした。

あのラストを見て、この映画を作った人はアルプススタンドのはしの方にいた人ではないのかもしれないと思ってしまった。そこが、この映画に感情移入しきれない理由の全てのようにも感じた。
骨折り損

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