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サヨナラまでの30分の教授のレビュー・感想・評価

サヨナラまでの30分(2020年製作の映画)
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結論から言えば、好きな映画である。ドキドキしたしワクワクしたし、センチメンタルな気持ちにもなる。
とにかく主演の北村匠海と新田真剣佑の演技力の高さと音楽的な部分も含めての身体性に圧倒される。
ここだけでも観る価値があると思う。
また音楽演出の、音が立ち上がる瞬間、といったエモーショナルになるシーンの演出などは素晴らしく日本映画の中では珍しく成功している例になっている。
劇中にさりげなく挿入される楽曲とドラマの連鎖は本作の白眉だと思う。

ただ…実のところ、それらが演出の部分であったり脚本自体の力かと言うとそうでもなく、つまるところメインキャスト2人の演技力によって「もっている」と言い切れなくもないところが困惑するところ。
基本的には、ストーリーやディテールの面で、あるいはプロットそのものに甘い部分が目立つ。
冒頭の畳み掛けなどは「この作品大丈夫か?」と危惧するほど説明的で、しかもかなりのテンポアップして状況を説明したかと思えば、新田真剣佑演じるアキが登場し話し始めた途端に「あれ?お前そんな奴だったの?」と面食らう。

ディテール面でも重要なアイテムとなる「カセットテープ」に対しても最後までなぜ、これなのかがよく飲み込めない上に「温かみがある」だの「音が残っている」だのをセリフで言わせたり、無駄に劇的に盛り上げたり、統一性を持っては描いてくれない上に、星空だとか、絵本だとか、というランダム過ぎる記号にとにかくストーリーがブレまくるので、盛り上がっては盛り下がるの繰り返しに苛まれる。

曲づくりのシーンに感動しながらも肝心のテープを「聴かなくてもいいから持ってて」とか意味不明なことを言ってみたり。
後半の逃げ出す件のダラダラ感や、筒井道隆や牧瀬里穂たち「親」の存在はまったくストーリーに関与して来ない上、どこか偉そうだったり、ザワザワしていたりと集中力が削がれる。

とにかくさまざまな部分で台無しになる描写が乱立してくるのが非常に勿体ない。
とても切なくて美しい物語である一方、とにかくセンスがなかったりスマートじゃなかったり、何より描写が不足していたりと忙しくまた物足りないのが残念。
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