ナガエ

デンマークの息子のナガエのレビュー・感想・評価

デンマークの息子(2019年製作の映画)
-
ドナルド・トランプが大統領になる時代だ。何が起こってもおかしくはない。

島国で育っているからなのかは分からないけど、僕は、「同じ民族だから仲間だ」という感覚が理解できない。意味不明だ、と言っていい。まあ僕の場合、「血が繋がってるから何?」と、血の繋がった家族に対する感覚も非常に薄いので、そういう意味でちょっと特殊なだけかもしれないけど。

「同じ民族だから仲間だ」と主張してしまうような人間は、本当に、人間を個人として捉えることができるのだろうか?例えばそれは、「食べ物を丸いかどうかで判断して食べる」みたいなものじゃないか。リンゴは丸いから食べるけど、ネギは丸くないから食べない。ホールケーキは丸いから食べるけど、ショートケーキは丸くないから食べない、みたいな人間がいたら、その判断基準を疑うだろう。民族で人を判断するのも、同じようなものじゃないか?

同じ民族だってクソみたいな人間はいるし、違う民族だって素晴らしい人間はいる。それなのに、どうして民族で分けたがるんだ?

昔の、宗教の違いで戦争をしていた時代の方が、まだ理解できる。「考え方」の違いというのは、同じ人生を歩む上で大きな障害になるというのは分かる。そして、宗教の差というのは、考え方の差として強く現れる。しかし民族は?

結局、民族で人を分けるのは、「分かりやすい」からだ。誰がどんな宗教を信仰しているのかは見た目ではなかなか分からないが、誰がどんな民族に属しているかはかなり見た目で分かる。そして、「自分たちは仲間だ」という感覚を強く抱きたいやつらが、自分たちには特に共通項がないものだから、違う民族を排除することで自分たちの仲間感を強めているだけだ、と僕には見える。

アホみてぇな世界だな。

もちろん、やはり島国にいるから、世界の国が抱えている「移民問題」を肌で感じることはない。移民問題はやっぱり、国を揺るがす問題なんだろう。難民を受け入れることで、国の税金が国民に回らなくなればイライラもするだろう。自分が直面している問題ではないから他人事でしかないのだけど、移民の問題が簡単ではないということは分かっているつもりだ。

でも、だからと言って、安易な解決法に手を出せば、結局問題は長引くことにもなるだろうと思う。

内容に入ろうと思います。
映画を観ている時には分からなかったけど、どうやら舞台は2025年の近未来だそうだ。1年前、コペンハーゲンのとある駅で悲惨なテロが起こったデンマークでは、そのテロの直後に立ち上がった「国民運動党」が躍進を続けている。その党首であるノーデルは、デンマークがこんな状況になっているのはパキスタンとイスラムの移民のせいだ、だから奴らをこの国から追い出すのだ、と主張して支持を集めている。その動きに呼応するかのように、「デンマークの息子」を呼ばれている集団が外国人排斥のための過激な活動をしており、その煽りを受けて、デンマークに暮らす特に中東からの移民は苦境に立たされている。
母と弟の三人で生活している19歳のザカリア、そんな「デンマークの息子」に対抗する過激派組織に参加することに決める。家族には就職すると嘘をつき、アリという組織の先輩から銃器の扱いの手ほどきを受けるザカリアは、国民運動党の党首暗殺を企てるが…。
というような話です。

面白いか面白くないかと聞かれたら、あんまりおもしろくはないのだけど、考えさせられる映画だった。特に、トランプ元大統領がアメリカをハチャメチャにしている様をニュースなどでよく見ているから、この映画で描かれていることも決して絵空事ではないという風に思う。

やはり日本に住んでいると、移民問題には疎くなる。日本にも、労働力不足のために移民を受け入れるべきだ云々という議論はあって、でも僕がニュースなんかを見ている感じだと、日本政府は移民を積極的に受け入れるつもりはないらしい。技能実習生みたいな形で、一定期間日本に来て働くのを認めていて、その権利を拡大するみたいな方針をニュースで見たような気もするけど、やっててもその程度だ。確か日本は、難民申請をしてもほとんど認められることがないらしい(詳しくは知らないのだけど)。国の方針として、最初から徹底的に排除しているということなんだと思う。

僕は、移民をもっと受け入れるべきだとも、移民は受け入れるべきじゃないとも思ってない。戦争なんかで難民になってしまった人が救われてほしいとは思うけど、ただ、その移住先が日本というのは果たして難民自身にとって助けになるのかはちょっと謎だとも思う。英語は通じないし、島国だから辿り着くのも大変だ。日本が難民の逃げ先として好条件なんであれば、日本はもっと門戸を開いた方がいいんじゃないか、と思ったりするかもしれないけど、あんまり僕にはそういう感覚もないからなんとも言えない。労働力が不足するから移民をという話も、都合の良い時だけ利用しますよ、と言ってるみたいで好きじゃないし。

移民問題が身近ではないから、この映画もあまり近いものとして感じられない、という部分はあったかなと思う。ただ、アメリカを例に挙げるまでもなく、世界的な問題であることは間違いないし、無関心で良いわけはないよなぁ、と思いながら見ていた。

ラストの展開は、まあ確かにそうなるよなと、許容したいわけではないけど同情に値すると感じた。
ナガエ

ナガエ