ミシンそば

ブラック・レインのミシンそばのレビュー・感想・評価

ブラック・レイン(1989年製作の映画)
3.2
案外、今の今まで観てなかった名作のうちの一本である。
ただ、本国アメリカでの地位は日本ほどは高くはないとは思う。
マイケル・ダグラスの良さも、高倉健の良さも、リドリー・スコットの良さもそれほど活きておらず、バブルに入るか入らないかくらいの時期の大阪の混沌だけが際立つ闇鍋映画。

まず、初見だからだろうが、ダグラス演じるニックが思った以上にガッツリ汚職警官だったのには流石に面食らったし、彼の行動を支持し、信頼する気には最後までなれなかったというのが本音。
大阪空港での大失態と、さすがに押しが強過ぎる日本での捜査と、バイアス等を掛けない努力(ハリウッドらしい結末にはしなかった佐藤との決着も含めて)は感じられるが、どちらにせよ混沌ばかりが際立つ日本描写には困惑も多少はする。

逆にダグラスや健さん、ヤクザの親分を演じる大物らを向こうに回して得をしているのは、チャーリー役のアンディ・ガルシア(ニックと比べると裏表のない警官で、半分観光くらいのテンションで日本を楽しんでる)と、ただのチンピラからのし上がった叩き上げの佐藤を演じる松田優作(撮影時点で癌に侵されていて、これが遺作となったのは非常に有名な話)。
松田優作の画面支配力はやはり凄まじく、すでに言い尽されたことだろうが鬼気迫るものを感じる。
そしてしっかり、本作が佐藤をラスボスとしている作りもよかった。
名悪役になるべくして作り出された、この佐藤と言うキャラクターの造形に、松田優作はその演技で以て応えた。
ここまで演れる役者が今、日本にどれだけいるだろう。

それはそうとして、終盤の菅井の親分とニックの対話では、案外黒い雨のくだりよりも「佐藤のような奴が大勢生まれた」ってセリフの方が個人的には記憶に残った。
そう言う見方も戦争を経験している人々からすると当然あるんだなって、一周回って新鮮にさえ思えたから。