このレビューはネタバレを含みます
まずは何より、ティ・チャラ役でありブラック・パンサーであったチャドウィック・ボーズマン氏に哀悼の意と敬意を評したい。
若くしてこの世を去った氏ですが、彼が作り上げたものはきっちりと受け継がれている…そう思わせる映画でした。
冒頭、いきなりブラック・パンサーことティ・チャラ王が病死するところから話は始まる。
これが現実世界とリンクしているようで見ていて本当に辛かった。
そして、王を失ったワカンダは貴重鉱石であるヴィブラニウムを独占してるということで国際的に責められ、強奪のため非正規軍まで送り込まれてしまうなど、世界中から孤立し始めてしまう。
そんな中、実はワカンダ以外に海底にもヴィブラニウムが存在することが分かるのだけど、そこにはタロカン帝国という、これまたワカンダと同じように世界から隔離し、独自の発展を遂げていた超大国があった。
今回はこの2つの国の戦いがメインに描かれるんだけど、見ていて心底辛く、悲しみを感じた。
ワカンダは悪用されると大変なことになるヴィブラニウムを独占するという形で管理し、それこそ数百年間外界との接触を断ってきたのに、地球の危機が訪れ、その内情が世間に知れ渡るやいなや、超科学力も相まって危険視されてしまう。
タロカン帝国もかつてスペインによって征服された民族達がヴィブラニウムの力により海底へと逃れ、実に400年以上も独自の発展を遂げてきたが、ヴィブラニウム探知機の存在によってその存在が表に出てきてしまう。
どちらも世界から爪弾きにされてる国なわけだ。
タロカン帝国は、かつて世界に追いやられたのだから、今回は攻められる前に世界を攻め滅ぼす。そのためにワカンダよ、協力しろ、さもないとお前らを先に潰すぞ!という主張をしてくる。
まあ、ワカンダ側が結論を出す前にイザコザが発生して、結局のところ2国の戦いになっていくんだけど、今作の真の敵って、言うたら世界なんですよね。
タロカン帝国の王、ネイモアが今作のメインヴィランになるわけですが、彼は彼の国の民を救うためにのみに戦っているわけで、一方的に攻め込んだりはしていない。ヴィランではなく、彼もまたヒーローなんですよ。
だからといって武力に物を言わせて相手を制圧するやり方は、かつて自分たちを海に追いやった人達と変わらないんだよ?というところがまた切ない。
最終的には、母親であり女王であるラモンダまでもが亡くなってしまったため、ティ・チャラの妹であるシュリがブラック・パンサーとしての意思を引き継いで2国の戦いを治めていく。
ぶっちゃけ、争う必要のなかった2国が争うことになってしまったという印象があった。
ネイモアはワカンダと同盟を組めるかもしれない…と思っていたとは言ったけど、そのためにやったことが「言うこと聞かないと国潰すぞという脅迫」→「王女誘拐」なんだから、ワカンダ側は侵略されたと思って反撃するよ。
その辺をもう少し上手く立ち回れば、無駄に死傷者出さなくてもよかったんじゃない?
まあ、そうなった場合、今作のような終わり方は迎えられず、ワカンダはタロカンの支配下におかれる…みたいになってたかもしれないけど。
アクションとしては160分と長い作品でありながら、メインのブラック・パンサー&アイアンハートが後半まで出てこないので、前半はオコエ隊長の槍さばきとネイモア無双がメインになっている。
特にネイモアは水陸両用なうえ超パワーの持ち主なので海に空にと飛び回りメチャクチャ格好いい。
設定的にはソーと同レベルくらいの強さらしいけど、珍しくビームや超能力といった遠距離攻撃はなく、ヴィブラニウム製の槍とバチバチの肉弾戦な上にがっつり半裸という、実に男らしい戦い方なので、今後の他作品とのクロスオーバーについていけるのか心配。
最終的にはオコエ隊長もスーツに身を包んで空を飛び回って戦えるようになるんだけど、もう一人全く同じ姿の味方がいるから分かりづらいのが難点。
ちょいちょい顔出ししてくれるから助かったけど、実戦において顔出すメリットないだろうから、やむを得ずって感じがしたのがもったいなかった。
最後の流れからして確実に次回作に繋がるだろうし、ラブ&サンダーの終わり方からするに、子供達のヒーローチームとか出来ていくのかもしれない。
全体的に次回作への繋ぎです感も否めなかったのはある。
特にティ・チャラにかつて命を救われたCIA捜査官のロスの「ワカンダの人は善人だ、彼らにならヴィブラニウムを任せられる。あんなものをアメリカが手にしたら…」という言葉に対し、その元嫁であり上官のヴァルの「そのアメリカこそ見てみたいわ」という会話には不穏しかない。
ただ、何よりもチャドウィック・ボーズマンの代役を立てず、悲しみを乗り越え続編を作成したスタッフと出演者の方々には感謝。
ブラック・パンサーの魂は確かに受け継がれていく、ワカンダ・フォーエバー!