ぜにげば

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーのぜにげばのネタバレレビュー・内容・結末

2.6

このレビューはネタバレを含みます

楽しめたかどうかで言うと楽しめた。
ただ、カタルシスはない映画だった。

予告編の段階で、明らかな追悼映画の雰囲気が醸し出されていて、最初に思ったことは「そっち方向に行くのか」だった。
チャドウィックボーズマンの死は非常に重たく、バナーやローズのキャスト変更とは一線を画すというのは納得できるが、どちらに舵を切ることも出来はしたはず。
根拠の無いものではあるけど、一番悪い言い方をすれば“感動ポルノ”になるかもという一抹の不安はあった。

ただ今作を見て、むしろ真逆で驚いた。

大して追悼映画になっていない…!!

作品のほとんどが錯乱したキャラクター達による血で血を洗う戦争だった。
何より問題なのは、“継承”すらもおざなりになっていること。

一作目ブラックパンサーのティチャラの「私は降参していない!そして見ての通り死んでもいない!」ってセリフが大好きだった。
純粋な力であるブラックパンサーは言ってしまえば破壊兵器。
平和のためにも、勝ったやつだけが継承するというシンプルなルールがある。
そんな伝統ある儀式を重んじた上で、屁理屈かもしれないが間違いなくその理屈は通っていてかっこいい、そんなシーンだった。
トニーがピーターに言った、「スーツなしじゃダメなら、スーツを着る資格はない」もそうだが、MCUに通底する“ヒーロー”がまさしくそこにある。

しかし今作にはそれがない。科学も立派な力だからハーブを復活させたことは良い事だと思うが、それを飲みブラックパンサーの力を得て、エムバクと腕相撲して認め合う。
そうじゃないだろ????

お前はなんなんだ?ただの妹だろ?

ただまあここまではいい。
シュリが闇堕ちする展開だったなら、それはそれで面白い。
キルモンガーが出てきたあたり本当にそうなりそうだった。
それなのになんだ、「ワカンダフォーエバー!」と言いながら背後からネイモアを燃やし、殺す直前で「降伏しろ」だ?
「ブラックパンサーは俺を殺せたのに殺さなかった」だ?
武力で傀儡としただけじゃないか。

もちろんシュリの思考回路は
復讐→ダメ→和平
ではあったけどそれはシュリの主観ではそうってだけだし、そもそも復讐心に取りつかれた間の負債が重すぎる。
結果として中途半端な結末でめちゃくちゃ残念だった。

一番ヤバいやつが誰かと言ったら女王。
こいつはなんなんだ。
そういえば1作目から割とヤバかったし、冒頭の国際会議的なのでドヤってたくせに、一番掻き乱してる。
最後に美味しい所を持ってく感じでシュリのフラッシュバックとして出てくるし、本当に意味がわからない。
1作目のティチャラの国際会議でのドヤりと悪い意味で比べてしまう。

ロスの「アメリカがヴィブラニウムを持ったらどうなる?」みたいなセリフも含めて、ワカンダを善にしたすぎ。

ネイモアもそれなりにやばい。
まあ初めて他国とヒリつき始めた時はどの国だってこういう対応をとることにはなるけど、それでも見てたら「他国を攻めるとかワカンダを攻めるとか言うなや」と思わずには居られない。
複数人でそういう決議になるならまだしも、ネイモア個人が決めてる事だから尚更。

他にも不満はある。
アイアンハートの掘り下げが足りない。
明らかな若い後継なんだからケイトくらいの掘り下げはして欲しい。
まあこれに関してはのちのちってことだろうけど、完全に国同士の争いのチャッカマンになってたのが物足りなかった。

ただ好きなところもかなりあるので、ここからは好きなところを書いていこうかなと思う。

まずホラー演出が良かったこと。
遠目から水面に顔を出すタロカン人は、子供の頃にみたネッシーの画像に近い印象を抱いた。
それにアクアマン以後の水生生物との共闘の描き方としても、不気味な方向に持って行って差別化をしてるのが素晴らしい。

それと、海外の作品で初めて「ワンピース」を意識してるのがうかがえてワクワクした。
海外の作品は基本「AKIRA」「エヴァ」「攻殻機動隊」などを意識するもので、「ワンピース」っぽさは初めて感じた。
まあ能力や設定自体はMARVELが先だろうけど、“描き方”がワンピースに似通っていた。
ネイモアが空中歩行的なことをするのは月歩かレイドスーツぽいし、タロカン人は魚人っぽかった。(これは当たり前か)
他にもタロカンの太陽は、完全に「宝樹アダム」だったし、最初こそ怖いセリフだったけど、ネイモアの「草の数よりたくさんの兵がいる」は明らかに嘘だったので「8000人の部下がいる」ぽさを感じた。
ネイモアちょっと可愛い。



総評として、不満はあるけど映画体験として苦痛だったかと言えばそんなことは無かったし、時間を長く感じたりもしなかった。

チャドウィックの死にもっと向き合って欲しかったし、色々とツッコミどころはあるが、良い所と悪い所が混在する作品なので、背景とかを知らずに続けて見た場合は好きな作品になっていたかもしれない。
まあ、一作目とは比較にはならないかな。

関係ないけど、同日に見たすずめの戸締りとRRRと今作がそれぞれ別の理由で自分の精神に負荷をかけてきてどうにかなりそうだった。
疲れたー。


2022/12/31追記
子供の存在を隠す理由がないし、観客を驚かせる道具以外の何者でなかったのは腹立たしかった。
チャドウィック・ボーズマンの追悼映画に見せ掛けて追悼になってない…と思ったらほんとに最後に公式から無下にしてきた感じ。
馬鹿みたいなオチだった。

なんか、時間が経って悪いところの印象が色濃く残るパターンの作品だな。
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